2015.05.28更新

追突され自賠責14級後遺障害を残す男子公務員の原告の後遺障害逸失利益について、「現実には、本件事故も給料面で格別不利益な取扱いを受けていない」として後遺障害逸失利益を認めませんでした。もっとも、後遺障害が残存しつつ通常業務をこなしている点については後遺障害逸失利益で斟酌されました(通常110万円のところ150万円)(京都地方債裁判所平成25年7月25日判決・自動車保険ジャーナル1911号112頁)。

<弁護士のコメント>

本件は被害者が公務員であり、休業損害も発生していない事案でした。被害者が公務員の場合、同様の問題が発生することと思われます。この点、最高裁判所昭和42年11月10日判決(民集21・9・2352)では「損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかった場合には、それを理由とする賠償請求ができないことをいうまでもない」としていますから、減収がない場合には原則として後遺障害逸失利益が認められないことになります。被害者としては、口頭弁論終結時において減収が一切ないにもかかわらず、逸失利益を請求するのであれば、将来的に減収の可能性があることを主張・立証することになります。本件のように、後遺障害逸失利益が何らかの理由によって否定される場合は、後遺障害慰謝料で斟酌されることがあります。つまり、後遺障害逸失利益としては認められないけれど、別のところ(後遺障害慰謝料)でフォローしますといった判断になります。

<争点>

・後遺障害逸失利益

・後遺障害慰謝料

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.26更新

公認会計士試験の短答式試験に合格していることから、公認会計士の平均年収を基礎収入と主張する21歳男子大学3年生Aの死亡逸失利益算定について、Aは本件事故当時、未だ大学3年生で、大学を卒業してすらいないこと、就職先が内定していたわけでもなく、将来において大卒者の平均賃金を上回る収入を得ることができるという高度の蓋然性があるとまではいうことができないことから、死亡逸失利益の基礎収入については、賃金センサス男性労働者大学・大学院卒の全年齢平均と認定して、生活費控除を5割としました(東京高等裁判所平成25年5月22日判決・自動車保険ジャーナル1911号75頁)。

<弁護士のコメント>

本件の1審判決では、裁判所は、被害者が大学生であるところ、公認会計士試験における合格率や難易度を問題にしています。 この点、別の裁判例では、歯科医のケースで似たような判断がなされています。大阪地方裁判所平成20年3月27日判決(自動車保険ジャーナル1761号)は、歯学部の大学生の死亡逸失利益について、合格率の高さ等を考慮してセンサス男子歯科医平均の90%を基礎収入にしています。この2つの裁判例を比較すると、要するに、公認会計士は合格率が低く、歯科医は合格率が高いということになるでしょう。歯科医の場合、大学入学時点で、専門の学科に入っているわけですから、合格率が高いこととあいまって、たとえ大学生であっても、歯科医として勤務する可能性が高いといえるでしょう。

<争点>

・死亡逸失利益の基礎収入

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.15更新

7級請求の高次脳機能障害について、頭部外傷、意識障害、画像所見をいずれも認めず、また、高次脳機能障害をうかがわせるような症状が発現したのは、事故発生から1年以上経過してからであること等を理由に、本件事故により脳の器質的損傷が生じ、これを原因とする高次脳機能障害が発症したとは認めがたいとしました。

後遺障害として局部の神経症状(頭痛、頚部痛)が残存し、これが少なくとも14級10号に該当することについては争いがなかったところ、後遺障害逸失利益については、症状固定から弁論終結時まで6年あまりが経過しているものの依然として局部の神経症状が認められることから、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間を10年としました。さらに、被害者が大学院を卒業(23歳)していること及び上記労働能力喪失期間に照らし、基礎収入を平成19年賃金センサス男子学歴計・全年齢平均賃金554万7200円としました(東京地方裁判所平成25年9月6日判決・自動車保険ジャーナル1910号1頁)。

<弁護士のコメント>

高次脳機能障害の有無が問題になり、本件の被害者の場合、症状の経過、画像所見がない、意識障害がないといった点が判断のポイントになっています。症状の発現が遅かったり、徐々に増悪していくようなケースでは、高次脳機能障害の有無について激しく争われることになります。また、神経心理学的検査については「認知障害を評価するにはある程度適したものといえるが、行動障害及び人格変化を評価するものではない」という評価をしています。神経心理学的検査の結果だけをもって、高次脳機能障害の発生を主張するのは困難ということになりそうです。また、事故直後の意識障害や画像所見がない場合、高次脳機能障害が脳外傷によって発生したものであるか否かが問題になります。つまり、交通事故に限らず高次脳機能障害の患者はいるところ、高次脳機能障害の発生が認められたからといって、交通事故による外傷性のものであるかどうかは、また別次元の問題になるということです。

<争点>

・高次脳機能障害

・軽症頭部外傷(MTBI)

・労働能力喪失期間(14級10号)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

交差点を赤信号で横断した歩行者Xと交差道路から黄信号で交差点に進入した車両Yの過失割合について、Xは歩行者用信号が赤色だったにもかかわらず、交差道路を進行してくる車がないものと軽信して道路を横断した過失があり、他方、Yには、対面信号の信号変化を注視せず、これが黄色を示したにもかかわらず、安全に停止できない速度で本件車両を進行させて本件交差点内に進入し、かつ、前方を注視せず進行して歩行者であるXの発見が遅れたために、本件車両を同人に衝突させた過失があるとしました。そして、本件事故はXYの過失があいまって発生したものとして、双方の過失割合を50:50としました。

また、被告は、原告が脾臓摘出等後遺障害等級13級11号)による労働能力喪失率については人体に影響がないと主張しましたが、裁判所は、脾臓の摘出により、感染予防希機能が低下する可能性があることなどを考慮すると、その労働能力喪失率は、腹部機器の機能に障害を残すもの(後遺障害等級13級11号)と同等の9%と認められるとしました(千葉地方裁判所平成25年8月27日判決・自動車保険ジャーナル1909号・103頁)。

<弁護士のコメント>

脾臓がなくても人間は生きていけることから、交通事故外傷によってダメージを受けた場合に、本件のように、脾臓が摘出されることがあります。裁判所は、脾臓が摘出されたことによる労働能力の喪失を否定する被告の主張を退け、一定の割合による後遺障害逸失利益を認定しました。自賠責によって後遺障害が認定されたとしても、本件のように、後遺障害の内容によっては労働能力喪失率が問題になります。

<争点>

・過失相殺

・後遺障害逸失利益(労働能力喪失率)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.12更新

高校を中退した21歳男子の後遺障害逸失利益の基礎収入について、裁判所は、原告が高校を中退して料理等の仕事に就いていたことや、症状固定当時23歳と比較的若年であったことから、平均賃金は症状固定時である平成23年の男子全年齢平均によるべきであるとしました。また、高校を中退したことについてはが、高校卒賃金センサスが458万8900円、中学卒賃金センサスが388万3100円となっていることを公知の事実として、そのほぼ中間にあたる年額420万円(月額35万)を基礎収入として認定しました(横浜地裁平成25年7月25日判決・自動車保険ジャーナル1909号71頁)。

<弁護士のコメント>

実収入が低い場合に、基礎収入を実収入にするか賃金センサスにするかという点で争われることがよくあります。本件では、高校中退者の後遺障害逸失利益の基礎収入について、実収入ではなく賃金センサスで、そして、中退という事実の評価として、賃金センサスの中でも中卒者と高卒者の中間を採用しています。

<争点>

・後遺障害逸失利益(基礎収入)

・保険会社に対する直接請求権

・確定遅延損害金

投稿者: 小島法律事務所

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