2015.05.19更新

症状固定時46歳男子の「右長拇指伸筋断裂」後の「右拇指の橈側外転・掌側外転の可動域制限」について自賠責は対象とせず、労災は「10級6号」とされたところ、裁判所は、平成23年8月24日、C労働局地方労災医員が拇指の橈側外転は右30度、左60度、掌側外転は右45度、左90度と測定し、患側の可動域(右75度)が腱側の可動域(左150度)の2分の1以下に制限されていることから認定されたされたものであることが認められる。証拠によれば、傷病名に「右長拇指伸筋断裂」があるが、自覚症状には拇指に関する障害の記載がなく、可動域の測定自体がされていないことが認められ、このため、自賠においては、右拇指に関する後遺障害が判断の対象とされなかったものと推認される。被告らは、右拇指の可動域制限がなかったから記載されなかったと主張するが、証拠において、右拇指の可動域を測定した上で、可動域制限がないことを確認した形跡がない以上、実際の測定に基づく証拠における認定の方が信用性がある。したがって、障害⑤は、自賠においても、第10級7号に該当するものと認められるとしました(横浜地方裁判所平成25年9月30日判決・自保ジャーナル1910号42頁)。

<弁護士のコメント>

本件では、自賠責で、対象とすらされなかった後遺障害について裁判所が証拠に基づいて認定した点が特徴です。なお、「長拇指」とは、前腕にあり親指(拇指)につながっている細長い筋のことをいいます。原告が自賠責の等級認定に対して異議申立てをしたのかどうかは不明ですが、後遺障害の有無について問題になる場合、通常は異議申立てによって対応することになると考えられます。

<争点>

後遺障害の有無

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.18更新

自賠責異議申立てで、7級4号高次脳機能障害が認定された61歳男子(異議申立て前は12級13号)につき、脳外傷による高次脳機能障害においては、通常、急性期の状態が最も悪く、時間の経過とともに軽減傾向を示すものであることを前提に、頭部の打撲があっても、その後通常の生活に戻り、外傷から数ケ月以上を経て、高次脳機能障害を思わせる症状が発現し、次第に増悪したケースは、外傷とは無関係に内因性の疾病が発病した可能性が高く、画像検査を行い、脳室拡大の伸展などの器質的病変が認められない場合には、非器質的精神障害である可能性を示唆しています。

そして、本件では、原告には、本件事故から3年半以上が経過した平成23年3月まで、脳外傷による高次脳機能障害の判断のために実施された神経心理学検査の結果が見られず、平成23年3月にされたウェクスラー成人知能検査では全検査IQが58であるなど知能低下が見られ、いまだ回復傾向が認められないこと、原告は運転手の職を続けることができず精神的な落ち込みが目立つこと、意見書においても、非器質的な精神障害が示唆されていること等に鑑み、原告の精神障害(記憶低下、言葉が直ぐに出ていない等)は、本件事故及びその後の社会心理的因子の影響による非器質的精神障害であるとしました。そして、後遺障害に関する損害の判断としては、その日常生活に支障が生じるものであるとしても、せいぜい後遺障害等級12級に相当するものでとどまるとしました(東京地方裁判所平成25年9月13日判決・自動車保険ジャーナル1910号29頁)。

<弁護士のコメント>

発症が遅かったり次第に増悪したりした場合には高次脳機能障害の有無が激しく争われます。本件では、意識傷害、神経心理学的検査、画像所見のいずれの要件からしても、高次脳機能障害が認定されるに足るものはないということになります。もっとも、高次脳機能障害の発生が否定されたとしても、交通事故後に脳損傷に類似する何らかの障害が残存する場合もあり、そのような場合に後遺障害をどのように評価するかが問題となります。本件では、高次脳機能障害を否定しつつ、非器質的精神障害(12級相当)が認定されています。このように、高次脳機能障害を否定しつつ、非器質的精神障害を認定するという判断枠組みは、裁判では珍しくはありません。ただ、本件の場合、異議申立てによって認定された高次脳機能障害を裁判所が否定した点に特徴があります。異議申立てで高次脳機能障害が認定された根拠となった意見書や診断書について、その証拠価値を裁判所が再度検討した上で、後遺障害の有無を判断しています。また、MTBI(軽度外傷性脳損傷)の主張については「医師の診断等に基づくものではなく、採用の限りではない」としています。今回の原告は、医師の意見書や診断書ではなく、自身の主張によってMTBIの認定を求めたものと思われますが、医学的判断なくして裁判所が認定するのは困難であると考えられます。

<争点>

・高次脳機能障害

・MTBI(軽度外傷性脳損傷)

・非器質性精神障害

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.15更新

7級請求の高次脳機能障害について、頭部外傷、意識障害、画像所見をいずれも認めず、また、高次脳機能障害をうかがわせるような症状が発現したのは、事故発生から1年以上経過してからであること等を理由に、本件事故により脳の器質的損傷が生じ、これを原因とする高次脳機能障害が発症したとは認めがたいとしました。

後遺障害として局部の神経症状(頭痛、頚部痛)が残存し、これが少なくとも14級10号に該当することについては争いがなかったところ、後遺障害逸失利益については、症状固定から弁論終結時まで6年あまりが経過しているものの依然として局部の神経症状が認められることから、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間を10年としました。さらに、被害者が大学院を卒業(23歳)していること及び上記労働能力喪失期間に照らし、基礎収入を平成19年賃金センサス男子学歴計・全年齢平均賃金554万7200円としました(東京地方裁判所平成25年9月6日判決・自動車保険ジャーナル1910号1頁)。

<弁護士のコメント>

高次脳機能障害の有無が問題になり、本件の被害者の場合、症状の経過、画像所見がない、意識障害がないといった点が判断のポイントになっています。症状の発現が遅かったり、徐々に増悪していくようなケースでは、高次脳機能障害の有無について激しく争われることになります。また、神経心理学的検査については「認知障害を評価するにはある程度適したものといえるが、行動障害及び人格変化を評価するものではない」という評価をしています。神経心理学的検査の結果だけをもって、高次脳機能障害の発生を主張するのは困難ということになりそうです。また、事故直後の意識障害や画像所見がない場合、高次脳機能障害が脳外傷によって発生したものであるか否かが問題になります。つまり、交通事故に限らず高次脳機能障害の患者はいるところ、高次脳機能障害の発生が認められたからといって、交通事故による外傷性のものであるかどうかは、また別次元の問題になるということです。

<争点>

・高次脳機能障害

・軽症頭部外傷(MTBI)

・労働能力喪失期間(14級10号)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

血中アルコール濃度0.20ミリグラム(一般的には酒気帯び運転に達しないレベル)での交通事故について、道路交通法65条1項の「酒気を帯びて」の意義を社会通念上酒気を帯びているといわれる状態、すなわち、その者が、身体にその者が通常保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等の外観上認知できる状態にあることをいい、同条項は、政令数値未満の罰則の対象とはならない程度の酒気帯び運転についても禁止する趣旨であるとしました。その上で、人身傷害保険の免責約款については、酒気を帯びた状態での運転のうち、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態に当たる場合とは、運転者の飲酒行動、事故当時身体に保有したアルコール量、アルコール耐性、事故当時の心身の状況、事故当時の運転状況や事故態様等を総合し、運転者が事故当時アルコールの影響により運転者としての通常の注意力、判断能力等を明らかに低下した状態であったと評価される場合をいうとしました。結論としては、本件では免責を認めています(名古屋地方裁判所平成25年7月26日判決・自動車保険ジャーナル1909号157頁)。

<弁護士のコメント>

道路交通法の「酒気を帯びて」の定義及び、人身傷害保険における酒気帯びの免責特約について、裁判所が具体的に判断しています。今後、同様の事案の参考になる裁判例であるといえます。本件は、約款の解釈適用という一見すると稀な事案についての判断と思われそうですが、要するに、アルコールを摂取した状態で自損事故を起こしてけがをしたというケースで問題になるので、比較的よくみかけるケースに対する判断といえます。本件の判断からすると、たとえ酒気帯び運転に達しないレベルであろうと、人身傷害保険金の支払を受けられない可能性があることになります。

<争点>

・酒気帯び免責

・人身傷害保険

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

山岳道路での事故について、裁判所は、本件事故は1度の走行では起こり得ない、すなわち、本件事故は一連のものではなく、甲野車が乙山車に追突された第1衝突の後、甲野車は一旦停止したにもかかわらず、その後に第2衝突や第3衝突が起こったものであるとし、第1衝突も意図的であると考えるのが合理的であること、本件事故発生場所に至る経緯にも合理性はないこと、甲野の関わる事故歴は多く本件事故も利益目的と疑うべき事情があること、本件事故が物損事故に止まっていることなどを総合すれば、本件事故は、甲野及び乙山が通謀して故意に発生させたものと認めるのが相当であるとして、加害者による保険金請求及び被害者の損害賠償額の保険金の直接請求について棄却しました(大阪地方裁判所平成25年3月25日判決・自動車保険ジャーナル144頁)。

<弁護士のコメント>

保険金請求の場合、通常は、契約に基づいて適正な請求がなされれば支払を受けることができます。もっとも、故意によって事故が発生した場合には保険会社は保険金の支払を免れることができます。本件は、保険金請求権者と第三者との間で、通謀による故意免責が認定された珍しい事例です。当事者は顔見知りだったことや保険契約状況、そして何より事故状況が決めてになって通謀による事故であると認定されたものと思われます。

<争点>

・故意免責(通謀)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

後退車両が倉庫に衝突し、倉庫所有者が①加害者に対して損害賠償請求をし、②加害者側保険会社に直接請求権に基づいて加害者の損害賠償義務が確定することを条件に同額の支払を求めた事案において、裁判所は、本件事故は、1審被告が、1審原告代表者と意を通じて又はその意を体して、本件保険契約に基づき支払われる保険金を1審原告に受領させるため、本件車両を意図的に操縦して発生させたものと推認されるとしました。そして、本件事故は、保険契約者である1審被告の故意によって生じたものといえるから、本件約款9条1項1号により、1審被告Y保険会社は、保険金の支払義務を免れるとして、保険会社に対する請求を棄却しました(名古屋高等裁判所平成25年6月14日判決・自動車保険ジャーナル1909号111頁)。

<弁護士のコメント>

保険金の請求については、故意によって発生した場合は支払われないという、いわゆる「故意免責」の条項が問題になります。通常は自身が加入する保険会社に対して契約に基づいて保険金請求をすれば認められるわけですが、本件の裁判所の判断によると、本件は、いわゆるモラル事案とされ、第1審の判断が変更され、確定しました。

<争点>

・事故の発生

・故意免責

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

交差点を赤信号で横断した歩行者Xと交差道路から黄信号で交差点に進入した車両Yの過失割合について、Xは歩行者用信号が赤色だったにもかかわらず、交差道路を進行してくる車がないものと軽信して道路を横断した過失があり、他方、Yには、対面信号の信号変化を注視せず、これが黄色を示したにもかかわらず、安全に停止できない速度で本件車両を進行させて本件交差点内に進入し、かつ、前方を注視せず進行して歩行者であるXの発見が遅れたために、本件車両を同人に衝突させた過失があるとしました。そして、本件事故はXYの過失があいまって発生したものとして、双方の過失割合を50:50としました。

また、被告は、原告が脾臓摘出等後遺障害等級13級11号)による労働能力喪失率については人体に影響がないと主張しましたが、裁判所は、脾臓の摘出により、感染予防希機能が低下する可能性があることなどを考慮すると、その労働能力喪失率は、腹部機器の機能に障害を残すもの(後遺障害等級13級11号)と同等の9%と認められるとしました(千葉地方裁判所平成25年8月27日判決・自動車保険ジャーナル1909号・103頁)。

<弁護士のコメント>

脾臓がなくても人間は生きていけることから、交通事故外傷によってダメージを受けた場合に、本件のように、脾臓が摘出されることがあります。裁判所は、脾臓が摘出されたことによる労働能力の喪失を否定する被告の主張を退け、一定の割合による後遺障害逸失利益を認定しました。自賠責によって後遺障害が認定されたとしても、本件のように、後遺障害の内容によっては労働能力喪失率が問題になります。

<争点>

・過失相殺

・後遺障害逸失利益(労働能力喪失率)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.13更新

10歳児が時速30キロメートル制限のスクールゾーンの車道に進出した事案について、歩行者は、進路右方に注意を払っておらず、むしろ被告車両と衝突するまでほとんど時間はなかったことから、被害少年の不注意の程度は「甚だしい」としながら、訴訟に先立つ自賠責保険の審査においては、被害少年に対して、7割以上の過失を対象とする重過失減額が適用されていないとして、6割の過失相殺をしました。

また、将来治療費について、本件事故により脱落した2本の永久歯については、原告が成人し上顎の成長が止まって安定した頃に、インプラント治療を行うのが相当であるとして、将来治療費を認定しました(横浜地方裁判所平成25年8月8日判決・自動車保険ジャーナル95頁)。

<弁護士のコメント>

過失割合の判断の際に訴訟に先行して審査された自賠責の重過失減額の有無を参考にしています。本件のように、インプラント治療の将来的な必要性がある場合、将来治療費の請求の可否が問題になりますが、本件では、被害者が10歳であることを考慮し、将来的にインプラント治療が必要であるとして、将来治療費が認められています。

<争点>

・過失割合(重過失減額)

・将来治療費(インプラント)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.13更新

対面信号が青矢印であったために右折したタクシーと対向車線から赤信号無視で直進してきたバイクが衝突した交通事故における過失割合が問題になりました。なお、本件に先立って判断された自賠責では、バイクの運転者について傷害分20%、後遺障害分30%の重過失減額がされていました(8割以上9割未満の過失)。裁判所は、原告車が本件交差点入口手前の停止線を通過した時点では、対面する信号信号は既に赤に変わっており、又は黄色から赤に変わる間際であったと認定しました。そして、原告車が停止線を通過した後に本件交差点に進入する時点では、既に赤色信号に変わっていたとしました。 他方、本件交差点の規模・客観的や交通量に照らすと、タクシーの運転者は、交差点を右折するに当たり、対面する信号機の信号表示が黄から赤・青右折矢印に変わった直後であったから、対向車線を黄色信号から赤色信号に変わった直後に進入してくる車両の存在に注意しつつ徐行して進行すべき義務があるのに、これを怠ったものと判断しました。そして、結論として、バイクの運転者の過失割合を80%としました。

また、休業損害については、本件事故による欠勤を理由に解雇されたとの原告の主張を否認しつつも、「本件事故発生日から退職日までの101日に加え、再就職のために必要な期間として退職後90日分を休業損害算定の基礎に加えるのが相当」としました(東京地裁平成25年8月7日・自動車保険ジャーナル1909号・87頁)。

<弁護士のコメント>

右折の青矢印に従って右折した場合、対向車は赤信号で交差点に進入したことになります。したがって、原則としては、青信号矢印にしたがって、右折したタクシー運転手には過失はないことになりそうです。もっとも、裁判所は、本件事案の特殊性を評価して、タクシー運転手に2割の過失を認定しました。裁判氏は、自賠責の重過失減額を参考にして訴訟における過失割合を認定しています。

<争点>

・過失割合(重過失減額)

・休業損害

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.13更新

乳がんがステージⅣと診断された女性(生存率17.1%)が氏名不詳者に接触された事故で路上に横臥していた際に、第2事故が発生し、死亡するに至った事案について、遺書等がなく、被害者に自殺のそぶりも見られないことから、乳がんステージⅣであったとしても、直ちに自殺であると認めることはできないとしました。また、被害者が事故当時横臥(横になっていること)していたことについては、第1事故によるものであると認定し、単に被害者が横臥していたことをもって、自殺の事情とすることはできないと判断しました。そして、自殺が否定される以上、故意による事故ではないとされ、因果関係が肯定されました。また、過失相殺については第1事故の事故態様が不明なことから「相対的過失割合」によることとし、被害者の過失を6割としました(名古屋地裁平成25年7月3日判決・自動車保険ジャーナル1909号79頁)。

<弁護士のコメント>

仮に、被害者による自殺であるとの認定がされた場合、加害者の過失と損害との間に相当因果関係がないことになります。本件では、路上横臥者が自殺であることを疑わせるような事情があったとしても、自殺であることを裏付ける客観的証拠がないことから自殺であることは否認されました。

<争点>

・因果関係(自殺)

・共同不法行為(相対的過失割合)

投稿者: 小島法律事務所

前へ 前へ

entryの検索

月別ブログ記事一覧

判例のご紹介 交通事故に遭ってからのご相談の流れ
弁護士に相談するメリット 交通事故の相談に対する6つの安心
弁護士費用について 事務所紹介 オフィシャルサイト