2021.12.21更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「保険代位と弁護士費用」についての解説です。

 日本の裁判では、訴訟追行を本人に行うか、弁護士を選任して行うかは本人の自由です。そのため、裁判で掛かる弁護士費用は、当該案件を弁護士に委任することを選択した本人の自己負担となるのが原則です。また、訴訟費用は敗訴者の負担となりますが(民事訴訟法61条)、弁護士費用は訴訟費用に含まれません。
 もっとも、現在の実務では、交通事故の損害賠償において、弁護士が代理人となっている場合には、弁護士費用が損害として認められるのが通例です。
 交通事故の損害賠償において弁護士費用が認められるのは、弁護士費用が不法行為と相当因果関係がある損害とされているからです。
 この点、最高裁判判決昭和44年2月27日判決(民集23巻2号441頁)は、「わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」と判示し、不法行為に基づく損害賠償請求において、弁護士費用は不法行為と相当因果関係にあることを認めています。

 一方で、保険会社が代位取得した損害賠償請求権に基づく請求の場合に弁護士費用の請求については問題があります。
 この点、名古屋高等裁判所平成29年10月13日判決(判例時報2381号87頁)は、「保険代位により取得した損害賠償請求権に基づく求償金請求であるから、これに要する弁護士費用が当然に賠償の対象となるものではないと解される。しかるに、一審原告会社は、弁護士費用が賠償の対象となる旨の具体的な主張・立証をせず、他に、これを認めるべき事情もうかがわれないから、弁護士費用は認められない。」と判示し、保険会社が代位取得した損害賠償請求権を行使する際の弁護士費用を認めていません。
 もっとも、東京地方裁判所平成15年9月2日判決(交民36巻5号1192頁)及び東京地方裁判所平成14年12月25日判決(交民36巻6号1715頁)は、「保険代位が生じる時点で既に被害者が訴訟追行を弁護士に委任していた場合には、具体的に発生した弁護士費用の賠償を求める権利は損害賠償請求権の一部として保険会社に移転することになる」と判示し、保険代位が生じる時点で既に被害者が訴訟追行を弁護士に委任していた場合に、弁護士費用が保険会社の損害に含まれる可能性があることを認めています。

投稿者: 小島法律事務所

2021.12.06更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「自賠責保険と任意保険との関係 その1」についての解説です。

 交通事故を起こしてしまったときに、車に任意保険がついていたが、手違いのため自賠責保険が期限切れとなっていた場合に、任意保険からはいくら払ってもらえるのか問題となります。

 結論からいうと、自賠責保険金額を控除した分のみが任意保険から支払われます。
 例えば、損害額が300万円で、自賠責保険がついていたときに120万円が支払われる場合には、差額の180万円のみが任意保険から支払われます。

 差額しか払われないのは、任意保険の対人賠償保険は、「上積み保険」と呼ばれ、自賠責保険を超過した損害を支払う契約となっているからです。
 なお、任意保険の対人賠償保険の約款では、多くの場合、「当会社は、…自賠責保険等…よって支払われる金額を超過する場合にかぎり、その超過額のみ保険金を支払います」と記載されています。

 そこで、加害者の車の自賠責の期限が切れていた場合、被害者は、自賠責保険金額分は、直接加害者から回収しなければならないのか問題となります。
 この点、自賠責保険のついていない自動車事故や、ひき逃げなど加害車両が不明な場合には、自動車損害賠償保障法第72条1項に基づき、事故の加害者にかわって、被害者に対して事故による損害にかかる治療費、慰謝料等の保障金(以下、「てん補金」という。)を支払う政府保障事業があります。
 そして、この請求は、加害者・被害者のいずれかの自賠責保険会社または自賠責共済を通じて、政府に対して行います。
 そのため、てん補金が支払われた場合には、被害者は、自賠責保険が支払われる場合と同等の保障を受けられる可能性があるといえます。
 なお、てん補金が支払われた場合、自動車損害賠償保障法第76条1項に基づき、政府は、加害者に対して被害者の有していた損害賠償請求権を代位して求償する可能性があるので、加害者は自賠責保険から支払われるはずだった賠償金の負担を免れないといえます。

投稿者: 小島法律事務所

判例のご紹介 交通事故に遭ってからのご相談の流れ
弁護士に相談するメリット 交通事故の相談に対する6つの安心
弁護士費用について 事務所紹介 オフィシャルサイト