残クレと評価損
2021.08.31更新
今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「残クレと評価損」についての解説です。
【残クレについて】
最近では、残価設定型のクレジット契約(いわゆる残クレ)を締結して、車両の購入を行う方が増えてきていると思われます。
この残価設定型のクレジット契約とは、車両の購入時に、あらかじめ3年から5年後の残価(下取り価格)を設定し、それを差し引いた額を分割払いするというものです。なお、残価とは、将来車を買い換えるときに残っている評価額(下取り価格)のことです
そして、ローンの返済期間終了後は、①車両を返却して新しい車を購入する(乗り換える)②残価を払って車両を買い上げる(所有する)③車両を返却する(手放す)のいずれかを選択することになります。
一方で、3年から5年後の車の状態が残価設定時の条件にあてはまっていないと、差額分の支払い(清算金)が発生します。
そのため、残価設定型のクレジット契約で購入した車両で、事故に遭い、車両の評価額が下落した場合に、残価から下落した価値(評価損)を損害賠償請求できるか問題となります。(評価損については、前回ブログ「評価損」を参照。)
【下落した価値の請求について】
1 使用者が請求できるか
事故車両の評価損は、交換価値の下落であり、これを把握しているのは所有者であることから、使用者は、原則として、評価損の損害賠償を求めることはできないとされています。
残価設定型のクレジット契約で車両を購入した場合でも、現実に車両を運転している人は、ローンを完済し、残価を支払うまでは、所有者でなく使用者であるため、原則として、使用者は下落した価値(評価損)を請求できないと考えられています。
一方で、使用者の請求を認めた裁判例が存在します。
大阪地方裁判所平成27年11月19日判決では、以下の理由で使用者による評価損に関する損害賠償請求を認めています。
『留保権者が自動車の売主ではなく,立替払いを行った信販会社であるような場合には,当初から評価損に係る損害賠償請求権を自らに帰属させ,行使することについてはさほど関心を持っておらず,その点については使用者の権利行使に事実上委ねる意向を有していると一般的にはいえる。また,取引上の評価損が認められる場合,実務上は修理費の一定額として認定される傾向にあるため,高額とはならないことが多い。したがって,こうした事情を考慮すれば,原告と株式会社Bとの間では,立替金完済前であっても,取引上の評価損に係る損害賠償請求権につき,使用者である原告に帰属させ,原告において行使するとの黙示の合意がなされていると認めるのが相当である。』
このように、裁判例では、契約の性質と評価損の実情から、所有者と使用者との間で、使用者に評価損に係る損害賠償請求権についての権利を、使用者に帰属させ、使用者が行使するとの黙示の合意の存在を前提に、使用者による評価損に関する損害賠償請求を認めています。
2 評価損の損害額
使用者による評価損に関する損害賠償請求が認められる場合、次に評価損の損害額はいくらなのか問題となります。損害額については、残価から実際に下落した額が損害額だとも考えられそうです。
この点、評価損の損害額については、裁判例上、修理費の数十パーセントとする傾向にあると思われます(福岡地方裁判所行橋支部令和3年1月19日判決(LLI/DB 判例秘書登載)など)。(なお、評価損の算定方法については、前回の記事「評価損」を参照してください。)
これに対して、特殊な例ではありますが、返却の際に生じた追加の支払額(清算金)に相当する額を認めた裁判例も存在します。
横浜地方裁判所平成23年11月30日判決(交通事故民事裁判例集44巻6号1499頁)は、被害者が、事故前に、契約で車両の返却を選択し、その後事故に遭い、車両の価値下落分の追加支払い余儀なくされていた事案です。
この裁判例では、以下の理由で、清算金に相当する額を損害額として認めました。
『評価損は,事故による修理後の車両の評価額と事故前の車両の評価額を比べたときの下落額によるのではなく,修理費用に一定額を乗じて算定されることが多いが,そのようにして算定されるのは,被害者が修理後もその車両を使用し続けることが想定されているため,上記下落額が事故の時点では現実化していないからであると解される。これに対し,事故の時点で価格の下落が現実化しているのであれば,その賠償を認めるのが,事故がなかった状態を回復するという損害賠償の本旨にかなうものであり,被害者に不当な利得を得させることにもならないから,その賠償を認めるべきであると解される。』
『前記第2,1(3)の事実によると,本件において,原告は,本件事故前に,車両返却を選択しており,証拠(甲5,6,9,10)によると,本件事故がなければ,原告車の返却時に追加の支払は発生しなかったところ,本件事故による原告車の価格低下によって追加の支払が発生したと認められるから,その追加の支払額(事故による修理後の車両の評価額と事故前の車両の評価額を比べたときの下落額)相当の損害が本件事故時に現実化しているということができる。したがって,原告は,被告に対して,その追加の支払額に相当する額の賠償を求めることができるというべきである。』
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