2021.02.26更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「事業所得者の休業損害」についての解説です。

【事業所得者の休業損害の算定について】
 休業損害とは、事故によって怪我をした際、その怪我によって休業したために得られなかった減収分(差額)を損害とするものです。
この点、事業所得者は、個人事業主、自営業者、自由業者(弁護士、芸能人、プロスポーツ選手等)など、多くの事業形態がありますが、事業所得者の休業損害は、現実の収入減があった場合に認められることになります。

 そして、事業所得者の休業損害の算定は、基本的に、事故前の申告所得額を基礎収入として、その日額に休業した期間の日数を乗じて、休業損害を算定する計算方法が用いられます。
 また、事業所得者が休業中も将来の事業継続のためにやむを得ない必要があるものとして、家賃や従業員の給与等の固定費を支出している場合には、この固定費も損害として認められています。

【基礎収入の認定】
 裁判では、事業所得者の基礎収入は、原則として、確定申告書控え、その添付書類(白色申告者の収支内訳書の控え、青色申告者の場合の所得税青色申告決済書の控え)等によって証明された事故の前年度の所得(所得の変動が大きい場合には、事故前の数年度の所得の平均額)によって認定されることが多いです。

【事業所得者における諸問題】
1 裁判で申告外所得を主張することは許されるのか
 事業所得者の方の中には、確定申告以外の所得を有している方や、確定申告が行われたものの、税務対応のため、収入の除外又は経費の水増しによる過少申告をしてしまい確定申告額と異なる所得を有している方もいるかと思われます。
そのような方の場合、裁判で、所得額として申告外所得を主張することが許されるのか問題となります。
 この点、申告外所得の主張は、その所得自体が違法に得られたものではなく、公序良俗や信義則に反するものではないため、満額認められるかは問題がありますが、裁判で、申告外所得を主張すること自体は許されるものと考えられています。

2 裁判で申告外所得が認められるためには
 一般的に、裁判における事実の証明は、証明しようとしている事実の存在が合理的な疑いを入れない程度まで証拠による証明を必要としています。
 この点、申告外所得を主張することは、確定申告時の主張と矛盾する主張になるため、裁判所は、申告外所得の主張を認めるかについては、より厳格に判断する傾向にあります。
 そのため、申告外所得が認められるためには、収入(総売上高)及び原価や営業経費・店舗設備費等の諸経費の存在について、信用性の高い証拠による合理的な疑いを入れない程度の証明の必要があります。

 そして、証拠としては、収入及び経費について、通常の業務の過程で作成される会計帳簿、伝票類、日計帳、レジの控え等が考えられます。
 また、当該証拠の信用性は、裁判上、高度なものを求められていますので、信用性の判断は厳格に判断されます。具体的には、証拠として提出された文書の体裁・記載内容、作成経緯等から判断され、場合によっては、前の確定申告の内容や一般の統計資料(総務省統計局編の個人企業経済調査年報の産業別分類表等)の数値を参考とすることもあります。

『参照書籍「交通事故による損害賠償の諸問題Ⅳ 損害賠償に関する講演録」143~148頁』

投稿者: 小島法律事務所

2021.02.19更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「給与所得者の休業損害 その3 年次有給休暇の使用と休業損害」についての解説です。

給与所得者の休業損害その1』を見て頂くと、より分かりやすくなります。

【休業損害の算定方法】
 休業損害を算定する方法としては、(1)休業により現実に生じた減収額を算定する方法と(2)事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります。

 (2)の計算方法の場合は、実務上、下記の3つの考え方のいずれかが用いられます。
①休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方法
②休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際に休業した日数を乗じる方法
③休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法

 これらの考え方は、どれかかが常に適しているという関係にあるのではなく、給与所得者の休業状況、収入日額の立証の難易度、正確な収入日額の算定の難易度等に応じて使い分けて用いられます。

【年次有給休暇について】
 年次有給休暇は、労働基準法39条に規定されています。
 そして、労働者が年次有給休暇を使用した場合、使用者は、就業規則等で定めるところにより、平均賃金、通常賃金、これらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金又は健康保険法上の標準報酬日額を支払うべきこととされています(39条9項)。
 また、実務上、年次有給休暇は、財産的価値を有するものされています。

【年次有給休暇の使用は損害か】
 裁判実務において、年次有給休暇使用分を休業による損害として認められることについては争われないことが多く、判決においても、休業日に年次有給休暇を使用して収入の減少を免れた場合、年次有給休暇使用分は休業による損害として評価されています。
 そして、年次有給休暇使用分を休業による損害とする根拠については、①年次有給休暇を使用しても、休業損害が発生しているとして、年次有給休暇を使用せずに休業した場合と同様に考える考え方と、②年次有給休暇を使用する権利または利益を喪失したとして、その喪失または使用せざるを得なかったことを損害として認める考え方があります。
 なお、判決においては、①と②のいずれかの考え方を採用したかが明示されていないことがほとんどです。

【年次有給休暇を使用した場合の算定方法】
 年次有給休暇を使用した場合の額は、就業規則等により定められていますので、その規定に従って、1日あたりの金額を計算できると思われます。
 ですから、年次有給休暇を使用して休業した日の休業による損害は、有給休暇を使用せずに休業した日の休業損害の計算方法と同様の方法で算定されることがほとんどです。

【通院等のために休日等を利用した場合との違い】
 通院等で労働契約上の休日を利用した場合も、年次有給休暇を使用した場合と同様に、休業損害として算定されるのか問題となります。
 この点、労働契約上の休日は、年次有給休暇とは異なり、労働契約に基づく給与の支払いに直接関係するものではありません。また、通院等のために要した時間は、慰謝料算定の考慮要素とされています。
ですから、労働契約上の休日は、年次有給休暇と同じ程度に、具体的な財産的価値を有しているとは考え難く、休業損害として算定されないと思われます。

【参照書籍:『損害賠償額算定基準下巻(講演録編)2018(平成30)』40~43頁】

投稿者: 小島法律事務所

2021.02.12更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「給与所得者の休業損害 その2 日雇労働者とアルバイトの場合」についての解説です。

 前回に続き、給与所得者の休業損害について解説いたします。
 前回の『給与所得者の休業損害その1』を見て頂くと、より分かりやすくなります。

【給与所得者の休業損害の計算方法】
 休業損害の計算方法としては、事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります。
 この計算方法の場合は、実務上、下記の3つの考え方のいずれかが用いられます。
①休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方法
②休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際に休業した日数を乗じる方法
③休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法

【給与所得者が就労しながら一定の頻度で通院を行っている場合】
 日雇労働者やアルバイトの方々は、労働契約上、実際に労働した時間に応じた金額の給与が支給されているはずなので、適切な証拠があれば、事故前に実際に労働した単位時間(実労働日1日)当たりの基礎収入を算定することが可能と思われます。

 そして、アルバイトで給与を得ている方の多くは、労働契約上、各週・月のどの日に勤務するかが概ね決まっていると思われます。その様な方々が事故に遭わなかった場合、事故に遭われた方は、どの日に労働していたかを認定することができると思われます。そのため、②の計算方法で休業損害を算定することができます。

 ですから、このような場合に被害者側が②の計算方法で算定した休業損害を請求しているにも関わらず、③の計算方法を採用することは、休業損害を過少に認定することになりますので、適切とはいえないと考えられます。

 他方で、日雇労働者の方々は、通常、短期の契約を予定していることが多いと思われます。そして、その様な方々は、事故の発生の時点で、将来どの日に労働するかが決まっていないことが多いと思われます。また、アルバイトの方々の中にも、労働契約上、各週・月のどの日のどの時間に勤務するかかが決まっていない方もいると思われます。

 この様な形態の給与所得者の方々については、証拠上、事故に遭わなかった場合、どの日に労働をしていたかを認定することが困難であるため、②の計算方法で休業損害を算定することが難しいとされています。

 しかし、この場合でも、事故に遭わなかった場合と比較して、通院等によって、その分の労働の機会を失い、現実の収入が減ったとみることができますので、休日を含んだ一定期間の給与の平均日額を基礎収入とし、これに通院日等を乗じる方法(③の計算方法)で休業損害を算定することができると考えられます。

【参照書籍:『損害賠償額算定基準下巻(講演録編)2018(平成30)』39、40頁】

投稿者: 小島法律事務所

2021.02.05更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「給与所得者の休業損害 その1」についての解説です。

 休業損害とは、事故によって怪我をした際、その怪我によって休業したために支給を受けられなかった減収分(差額)を損害とするものです。

 休業損害を算定する方法としては、(1)休業により現実に生じた減収額を算定する方法と(2)事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります。
 (2)の計算方法の場合は、実務上、下記の3つの考え方のいずれかが用いられます。
①休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方法
②休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際に休業した日数を乗じる方法
③休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法

 これらの考え方は、どれかかが常に適しているという関係にあるのではなく、給与所得者の休業状況、収入日額の立証の難易度、正確な収入日額の算定の難易度等に応じて使い分けて用いられます。

 ここからは、休業損害でよくあるケースで説明します
【ケース1】給与所得者が継続して完全休業する場合
 休業損害を正確に算定するため、②の方法によるべきとの考え方もありますが、完全休業の期間がある程度長期の場合は、①でも②でも、結論に大きな差は出ないので、いずれの方法でもよいとされています。


【ケース2】給与所得者が就労しながら一定の頻度で通院していた場合
 給与所得者は、休業損害証明書等の適切な証拠がある場合には、事故前の給与の金額に基づいて実労働日1日当たりの平均給与額を算定することができる上、労働契約によって、就労すべき日が定められているため、通院をした日のうち、交通事故がなければ就労していた日はいつなのかが認定できます。ですから、被害者側が②の計算方法で算定した休業損害を請求しており、証拠上、事故前の具体的な稼働日数、支払を受けた給与の金額を認定できる場合には、②の計算方法によるのが相当です。

 一方で、休業損害証明書が提出されないなどの事情等で、証拠上、実労働日1日当たりの平均給与額を認定することができない場合には、③の計算方法によって休業損害を算定せざるを得ないことも考えられます。この場合、事故前年の源泉徴収票記載の給与額を365日で割った金額を基礎収入とし、これに実際の休業日数を乗じる方法等が用いられます。

 なお、休業損害証明書が発行されない場合でも、就業規則や事故前年度の源泉徴収票等を用いて、②の計算方法で算定することも考えられます。

【参照書籍「損害賠償額算定基準 下巻(講演録編)2018(平成30年)」37頁】

投稿者: 小島法律事務所

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