2022.10.28更新

 民法改正により、時効の停止、中断というわかりにくかった用語が、改正されました。
 「停止」とは、停止事由が存在した場合に、その時点から時効の進行がストップするものです。また、「中断」とは、中断事由が存在した場合に、その時点から時効が一度ゼロになり、新たに時効が開始するものです。
そして、当該民法改正により、「停止」が「完成の猶予」に、「中断」が「更新」と改められました。

 また、時効の完成猶予及び更新については、用語の改正以外にも、特に次の点で大きな改正があります。

 更新事由として、確定判決・確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定された場合があります(改正民法147条2項)。そして、「確定判決・確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定された場合」には、民事調停及び家事調停も含まれます。

 旧民法が適用されていたときは、民事調停を行い、調停不成立となった場合には、不成立の日から1カ月以内に訴訟を提起しなければ、時効の更新(中断)の効力が生じませんでした(旧民法151条)。

旧民法151条
「和解の申立て又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、1ヵ月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。」

 この点、民法改正により、提訴までの期間が、1カ月から6カ月へ改正されました(改正民法147条1項)。
 そのため、訴訟において消滅時効の援用を行うにあたって、訴訟前に民事調停が行われていた場合には、上記期間が経過しているか特に注意が必要です。

改正民法147条
「1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。」

 もっとも、改正民法の適用範囲は、民事調停及び家事調停だけですので、他の制度を利用する場合には、当該制度を利用することによって、時効の完成猶予や更新の効果があるか注意が必要です。
 この点、民事調停に似た制度として、認証ADR機関へのADR申立てがあります。
 このADRとは、裁判外紛争解決のことをいいます。損害賠償請求と関連するADRとしては、各地の弁護士会が主宰する仲裁や紛争解決手続、交通事故紛争処理センター(交通事故ADR)などが挙げられます。
 そして、このADRの申立てにも時効の完成猶予の効果があります。具体的には、ADRで和解が成立しなくても、ADR手続きの終了の通知を受けた日から1か月以内に訴訟提起をすれば、ADRの申立ての時点で「裁判上の請求」があったものとみなされます(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律25条1項)。

第25条1項
「認証紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に手続実施者が当該認証紛争解決手続を終了した場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛争の当事者がその旨の通知を受けた日から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関しては、当該認証紛争解決手続における請求の時に、訴えの提起があったものとみなす。」

投稿者: 小島法律事務所

2022.10.09更新

 交通事故に遭った後、車の損傷が軽微などの理由で、警察を呼ばず、事故当事者同士での話し合いで解決しようとする方もいるかと思います。
事故に遭ったにもかかわらず、警察を呼ばなかった場合、以下のような不利益・不都合な事態に陥ることがあります。

①刑事罰が科される可能性があること
 交通事故に遭った場合に、警察へ報告することは、道路交通法上の義務です(道路交通法72条1項後段)。
第七十二条 
『交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。』
そして、交通事故にあったにもかかわらず、警察へ報告しなかった場合、刑事罰が科される可能性があります。
第百十九条 
『次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
 …
十 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者』

②交通事故証明書が発行されないこと
 交通事故証明書とは、自動車安全運転センター法の定めにより、自動車安全運転センターが、警察から提供された証明資料に基づき、交通事故の事実を確認したことを証明する書面です。
 そのため、警察へ交通事故の報告を行わなかった場合、当然、交通事故証明書は作成されません。

 そして、事故当日は自分の非を認めていた加害者が、後日、事故の存在自体を否定した場合、交通事故証明書がないと、事故が発生したことを証明することが困難となります。
 また、任意保険会社からの保険金の支払は、多くの場合、交通事故証明書の作成が前提であることから、スムーズな保険金の支払が行われない可能性があります。

投稿者: 小島法律事務所

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