2015.05.14更新

血中アルコール濃度0.20ミリグラム(一般的には酒気帯び運転に達しないレベル)での交通事故について、道路交通法65条1項の「酒気を帯びて」の意義を社会通念上酒気を帯びているといわれる状態、すなわち、その者が、身体にその者が通常保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等の外観上認知できる状態にあることをいい、同条項は、政令数値未満の罰則の対象とはならない程度の酒気帯び運転についても禁止する趣旨であるとしました。その上で、人身傷害保険の免責約款については、酒気を帯びた状態での運転のうち、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態に当たる場合とは、運転者の飲酒行動、事故当時身体に保有したアルコール量、アルコール耐性、事故当時の心身の状況、事故当時の運転状況や事故態様等を総合し、運転者が事故当時アルコールの影響により運転者としての通常の注意力、判断能力等を明らかに低下した状態であったと評価される場合をいうとしました。結論としては、本件では免責を認めています(名古屋地方裁判所平成25年7月26日判決・自動車保険ジャーナル1909号157頁)。

<弁護士のコメント>

道路交通法の「酒気を帯びて」の定義及び、人身傷害保険における酒気帯びの免責特約について、裁判所が具体的に判断しています。今後、同様の事案の参考になる裁判例であるといえます。本件は、約款の解釈適用という一見すると稀な事案についての判断と思われそうですが、要するに、アルコールを摂取した状態で自損事故を起こしてけがをしたというケースで問題になるので、比較的よくみかけるケースに対する判断といえます。本件の判断からすると、たとえ酒気帯び運転に達しないレベルであろうと、人身傷害保険金の支払を受けられない可能性があることになります。

<争点>

・酒気帯び免責

・人身傷害保険

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

山岳道路での事故について、裁判所は、本件事故は1度の走行では起こり得ない、すなわち、本件事故は一連のものではなく、甲野車が乙山車に追突された第1衝突の後、甲野車は一旦停止したにもかかわらず、その後に第2衝突や第3衝突が起こったものであるとし、第1衝突も意図的であると考えるのが合理的であること、本件事故発生場所に至る経緯にも合理性はないこと、甲野の関わる事故歴は多く本件事故も利益目的と疑うべき事情があること、本件事故が物損事故に止まっていることなどを総合すれば、本件事故は、甲野及び乙山が通謀して故意に発生させたものと認めるのが相当であるとして、加害者による保険金請求及び被害者の損害賠償額の保険金の直接請求について棄却しました(大阪地方裁判所平成25年3月25日判決・自動車保険ジャーナル144頁)。

<弁護士のコメント>

保険金請求の場合、通常は、契約に基づいて適正な請求がなされれば支払を受けることができます。もっとも、故意によって事故が発生した場合には保険会社は保険金の支払を免れることができます。本件は、保険金請求権者と第三者との間で、通謀による故意免責が認定された珍しい事例です。当事者は顔見知りだったことや保険契約状況、そして何より事故状況が決めてになって通謀による事故であると認定されたものと思われます。

<争点>

・故意免責(通謀)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

後退車両が倉庫に衝突し、倉庫所有者が①加害者に対して損害賠償請求をし、②加害者側保険会社に直接請求権に基づいて加害者の損害賠償義務が確定することを条件に同額の支払を求めた事案において、裁判所は、本件事故は、1審被告が、1審原告代表者と意を通じて又はその意を体して、本件保険契約に基づき支払われる保険金を1審原告に受領させるため、本件車両を意図的に操縦して発生させたものと推認されるとしました。そして、本件事故は、保険契約者である1審被告の故意によって生じたものといえるから、本件約款9条1項1号により、1審被告Y保険会社は、保険金の支払義務を免れるとして、保険会社に対する請求を棄却しました(名古屋高等裁判所平成25年6月14日判決・自動車保険ジャーナル1909号111頁)。

<弁護士のコメント>

保険金の請求については、故意によって発生した場合は支払われないという、いわゆる「故意免責」の条項が問題になります。通常は自身が加入する保険会社に対して契約に基づいて保険金請求をすれば認められるわけですが、本件の裁判所の判断によると、本件は、いわゆるモラル事案とされ、第1審の判断が変更され、確定しました。

<争点>

・事故の発生

・故意免責

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.14更新

交差点を赤信号で横断した歩行者Xと交差道路から黄信号で交差点に進入した車両Yの過失割合について、Xは歩行者用信号が赤色だったにもかかわらず、交差道路を進行してくる車がないものと軽信して道路を横断した過失があり、他方、Yには、対面信号の信号変化を注視せず、これが黄色を示したにもかかわらず、安全に停止できない速度で本件車両を進行させて本件交差点内に進入し、かつ、前方を注視せず進行して歩行者であるXの発見が遅れたために、本件車両を同人に衝突させた過失があるとしました。そして、本件事故はXYの過失があいまって発生したものとして、双方の過失割合を50:50としました。

また、被告は、原告が脾臓摘出等後遺障害等級13級11号)による労働能力喪失率については人体に影響がないと主張しましたが、裁判所は、脾臓の摘出により、感染予防希機能が低下する可能性があることなどを考慮すると、その労働能力喪失率は、腹部機器の機能に障害を残すもの(後遺障害等級13級11号)と同等の9%と認められるとしました(千葉地方裁判所平成25年8月27日判決・自動車保険ジャーナル1909号・103頁)。

<弁護士のコメント>

脾臓がなくても人間は生きていけることから、交通事故外傷によってダメージを受けた場合に、本件のように、脾臓が摘出されることがあります。裁判所は、脾臓が摘出されたことによる労働能力の喪失を否定する被告の主張を退け、一定の割合による後遺障害逸失利益を認定しました。自賠責によって後遺障害が認定されたとしても、本件のように、後遺障害の内容によっては労働能力喪失率が問題になります。

<争点>

・過失相殺

・後遺障害逸失利益(労働能力喪失率)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.13更新

10歳児が時速30キロメートル制限のスクールゾーンの車道に進出した事案について、歩行者は、進路右方に注意を払っておらず、むしろ被告車両と衝突するまでほとんど時間はなかったことから、被害少年の不注意の程度は「甚だしい」としながら、訴訟に先立つ自賠責保険の審査においては、被害少年に対して、7割以上の過失を対象とする重過失減額が適用されていないとして、6割の過失相殺をしました。

また、将来治療費について、本件事故により脱落した2本の永久歯については、原告が成人し上顎の成長が止まって安定した頃に、インプラント治療を行うのが相当であるとして、将来治療費を認定しました(横浜地方裁判所平成25年8月8日判決・自動車保険ジャーナル95頁)。

<弁護士のコメント>

過失割合の判断の際に訴訟に先行して審査された自賠責の重過失減額の有無を参考にしています。本件のように、インプラント治療の将来的な必要性がある場合、将来治療費の請求の可否が問題になりますが、本件では、被害者が10歳であることを考慮し、将来的にインプラント治療が必要であるとして、将来治療費が認められています。

<争点>

・過失割合(重過失減額)

・将来治療費(インプラント)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.13更新

対面信号が青矢印であったために右折したタクシーと対向車線から赤信号無視で直進してきたバイクが衝突した交通事故における過失割合が問題になりました。なお、本件に先立って判断された自賠責では、バイクの運転者について傷害分20%、後遺障害分30%の重過失減額がされていました(8割以上9割未満の過失)。裁判所は、原告車が本件交差点入口手前の停止線を通過した時点では、対面する信号信号は既に赤に変わっており、又は黄色から赤に変わる間際であったと認定しました。そして、原告車が停止線を通過した後に本件交差点に進入する時点では、既に赤色信号に変わっていたとしました。 他方、本件交差点の規模・客観的や交通量に照らすと、タクシーの運転者は、交差点を右折するに当たり、対面する信号機の信号表示が黄から赤・青右折矢印に変わった直後であったから、対向車線を黄色信号から赤色信号に変わった直後に進入してくる車両の存在に注意しつつ徐行して進行すべき義務があるのに、これを怠ったものと判断しました。そして、結論として、バイクの運転者の過失割合を80%としました。

また、休業損害については、本件事故による欠勤を理由に解雇されたとの原告の主張を否認しつつも、「本件事故発生日から退職日までの101日に加え、再就職のために必要な期間として退職後90日分を休業損害算定の基礎に加えるのが相当」としました(東京地裁平成25年8月7日・自動車保険ジャーナル1909号・87頁)。

<弁護士のコメント>

右折の青矢印に従って右折した場合、対向車は赤信号で交差点に進入したことになります。したがって、原則としては、青信号矢印にしたがって、右折したタクシー運転手には過失はないことになりそうです。もっとも、裁判所は、本件事案の特殊性を評価して、タクシー運転手に2割の過失を認定しました。裁判氏は、自賠責の重過失減額を参考にして訴訟における過失割合を認定しています。

<争点>

・過失割合(重過失減額)

・休業損害

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.13更新

乳がんがステージⅣと診断された女性(生存率17.1%)が氏名不詳者に接触された事故で路上に横臥していた際に、第2事故が発生し、死亡するに至った事案について、遺書等がなく、被害者に自殺のそぶりも見られないことから、乳がんステージⅣであったとしても、直ちに自殺であると認めることはできないとしました。また、被害者が事故当時横臥(横になっていること)していたことについては、第1事故によるものであると認定し、単に被害者が横臥していたことをもって、自殺の事情とすることはできないと判断しました。そして、自殺が否定される以上、故意による事故ではないとされ、因果関係が肯定されました。また、過失相殺については第1事故の事故態様が不明なことから「相対的過失割合」によることとし、被害者の過失を6割としました(名古屋地裁平成25年7月3日判決・自動車保険ジャーナル1909号79頁)。

<弁護士のコメント>

仮に、被害者による自殺であるとの認定がされた場合、加害者の過失と損害との間に相当因果関係がないことになります。本件では、路上横臥者が自殺であることを疑わせるような事情があったとしても、自殺であることを裏付ける客観的証拠がないことから自殺であることは否認されました。

<争点>

・因果関係(自殺)

・共同不法行為(相対的過失割合)

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.12更新

高校を中退した21歳男子の後遺障害逸失利益の基礎収入について、裁判所は、原告が高校を中退して料理等の仕事に就いていたことや、症状固定当時23歳と比較的若年であったことから、平均賃金は症状固定時である平成23年の男子全年齢平均によるべきであるとしました。また、高校を中退したことについてはが、高校卒賃金センサスが458万8900円、中学卒賃金センサスが388万3100円となっていることを公知の事実として、そのほぼ中間にあたる年額420万円(月額35万)を基礎収入として認定しました(横浜地裁平成25年7月25日判決・自動車保険ジャーナル1909号71頁)。

<弁護士のコメント>

実収入が低い場合に、基礎収入を実収入にするか賃金センサスにするかという点で争われることがよくあります。本件では、高校中退者の後遺障害逸失利益の基礎収入について、実収入ではなく賃金センサスで、そして、中退という事実の評価として、賃金センサスの中でも中卒者と高卒者の中間を採用しています。

<争点>

・後遺障害逸失利益(基礎収入)

・保険会社に対する直接請求権

・確定遅延損害金

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.11更新

12級7号右股関節機能障害と13級8号右下肢短縮の併合11級を認定しつつ(行政通達によれば労働能力喪失率20%)、後遺障害逸失利益の額を認定するにあたって、後遺障害等級及び労災保険に関する行政通達が定める労働能力喪失率は、「考慮すべき一資料」とはしたものの、拘束力を認めず、、被害者と加害者の間における示談の交渉経過も同様としました。そして、原告の業務が肉体労働を中心とするものはなく、右股関節の可動域制限や右下肢短縮が、原告の業務の円滑な遂行を顕著に阻害するものとは言い難いとして、労働能力喪失率を16%と認定しました(名古屋地裁平成25年7月18日判決・自動車保険ジャーナル63頁)。

<弁護士のコメント>

後遺障害の内容及び被害者の業務の実態から後遺障害逸失利益の労働能力喪失率の有無・程度を判断した裁判例です。足が短くなったことがどのような労働能力喪失をもたらすかを判断しています。訴訟においては、被害者から自賠責の労働能力喪失率が主張されることが多いですが、それは1つの目安に過ぎないことを確認しています。

<争点>

・後遺障害逸失利益

・自賠責の労働能力喪失率

・保険会社と被害者の示談交渉経過

投稿者: 小島法律事務所

2015.05.09更新

自賠責5級2号高次脳機能障害(併合3級)を残す50歳男子板金工の後遺障害逸失利益について、就業規則上、従業員の定年が満65歳とされていたことから、65歳まで実収入、その後2年間は賃金センサス男子同年齢平均によって算定しました。本件では、原告は、定年後も同社に継続勤務する黙示の合意があったと主張しましたが、それを裏付ける証拠はなかったことから認められませんでした。なお、65歳までの15年間はライプニッツ係数を10.3797として算定し、その後の2年間については、17年に対応するライプニッツ係数11.2741から前記15年に対応する10.3797を控除した0.8944として算定しています(東京地方裁判所平成25年7月31日判決・自動車保険ジャーナル1909号51頁)。

<弁護士のコメント>

高次脳機能障害とは、脳の器質的損傷によって生じた、脳の様々な機能の低下をいいます。高次脳機能障害等の後遺障害が残存した場合「後遺障害逸失利益」の算定が問題になります。本件では、被害者が勤務する会社の就業規則をもとにし、定年までは事故前の収入を基礎とし、定年後は賃金センサスを基準に67歳までの後遺障害逸失利益を算定しています。後遺障害逸失利益の場合、被害者の勤務実態が問題になるので、就業規則の規定が証拠としての大きな価値を有します。

<争点>

・後遺障害逸失利益

・高次脳機能障害

投稿者: 小島法律事務所

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