2020.12.03更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「あおり運転者に対する損害賠償請求」についての解説です。

 昨今、あおり運転に対する処罰規定が創設されるなど、あおり運転に対する関心が高まっています。

 あおり行為によって引き起こされた交通事故(たとえば、被害車両の後方から加害車両が車間距離を保持せず、急接近を繰り返したうえで、加害車両が被害車両の追突するような事故)が発生した場合、もちろん被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。

 交通事故における加害者から被害者への賠償は、加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社によって代わりになされるのが通常です。しかし、上述のようなあおり行為が原因となって事故が発生した場合には、加害者側の保険会社は、「故意免責」を理由として、被害者への保険対応を拒否する可能性があるのではないか、という疑問が生じます(現実にはあまりないとは思いますが)。

 まず、故意免責とは、保険金支払い事由にあたる事故が、被保険者(加害者)の故意によって生じた場合に、保険会社が保険金の支払いを拒否できるというものです(保険法17条1項、各種保険約款参照)。

 上述のような急接近を繰り返すようなあおり行為は、故意になされるものと考えられますから、そのあおり行為が原因で事故が発生した場合には、加害者側の保険会社は、この故意免責の主張をして、保険対応を拒否するという可能性が一応は考えられるのです。

 そして、以上の故意免責について生じる論点に関し、判断された最高裁の判例(最高裁平成5年3月30日判決(民集47巻4号3262頁))があるので要旨をご紹介します。

 この事件は、加害者が車両を発進させる際に、あるトラブルの相手方であった被害者が、当該車両の扉を開けようとしたり、フロントガラスをたたくなどしたために、加害者が車両を発進させたところ、これにより被害者が転倒し、数日後に死亡したという事件です。そして、被害者の遺族が加害者側に損害賠償請求を行ったところ、加害者側の保険会社は故意免責を主張して賠償を拒否したというものです。

 この事件において裁判所は、①未必の故意であっても故意免責の場合の「故意」に含まれることを前提にしつつ②任意保険契約当事者の意思解釈からすると、故意を原因とする事故においても、予期しなかったような損害が発生した場合には、免責の範囲外である、との判断を行いました。

 つまり、上記判例をあおり行為にも引き直して考えると、あおり行為を原因とする事故が発生した場合には、あおり行為の故意と、あおり行為による事故発生及び被害の範囲を加害者が予期していたかという2つの観点から、保険会社の故意免責の主張が成立するかが検討されることになるといえます。

 したがって、あおり行為が原因となった事故が発生した場合でも、それをもって直ちに故意免責が適用されるわけではないということになります。

 当職の実感としては、実際に加害者側の保険会社が故意免責を主張するケース自体、稀だと思います。被害者と加害者が通謀して事故を起こすような(いわゆる、つくり事故の)ケース等の場合には故意免責が主張されますが、その場合には、ほとんどの加害者側の保険会社は、綿密な調査を行っていると思います。

 ちなみに、故意免責に該当し、加害者側の保険会社が保険対応を行わない場合には、自賠責に対する被害者請求のほか、加害者本人から賠償を受けたり、自身が加入する任意保険(人身傷害保険等)から一定の補償を受ける等の手段が考えられます。

投稿者: 小島法律事務所

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