2020.03.26更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「盗難車の所有者の責任 3(自賠法)」についての解説です。

 前回の稿(盗難車の所有者の責任2)では盗難車の所有者の不法行為責任を説明しましたが、今回は自動車損害賠償責任法(以下、「自賠法」といいます)3条の運行供用者責任を説明します。 

 自賠法は、自動車による交通事故によって、生命・身体が害された場合に、その被害者を確実に救済することを目的とする法律です(自賠法1条)。その意味で、自賠法には民法の不法行為責任の特則的な性格があります。

 まず、自賠法3条本文は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しています。「運行」という言葉は、自賠法2条2項において「・・・自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と定義されています。

 この条文を分析すると、自賠法3条は、民法709条(不法行為)と2つの大きな違いがあることがわかります。 

 まず①自賠法3条は、民法709条とは違い、「故意・過失」が成立要件になっていません。ですので、この点は被害者側に有利な取り扱いになっています。他方で②自賠法3条では「他人の生命又は身体」に賠償の対象が限定されています。そのため、民法709条とは違い、人身損害のみに適用される点で、その賠償責任の範囲が限定されています(ですので、全稿までに紹介した令和2年1月21日の最高裁判決の事案のように物損事故しか生じていない場合には、自賠法は使えないということです。)。

 つまり一般的には、人身損害であるならば、民法709条に基づく損害賠償請求よりも、自賠法3条に基づく損害賠償請求の方が認められやすいといえます。同条に基づく責任を運行供用者責任といいます。

 では、人身損害であれば、泥棒運転による事故であっても、その被害者は自賠法3条本文によって車の所有者に対して運行供用者責任を追及することが可能であるといえるのでしょうか。 

 この点、最高裁は自賠法3条本文の「自己のために自動車を運転の用に供する者」とは「自動車の使用について支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」であると解しています(最判昭和43年9月24日 判時539号40頁)(ちなみに、この判例は盗難事件について判断されたものではありませんが、その後盗難事件における所有者の損害賠償責任が争われた最高裁昭和48年12月20日判決(民集27巻11号1611頁)等において踏襲されています。)。 

 要するに最高裁は、泥棒運転において所有者が自賠法3条の運行供用者に該当する場合とは、所有者が①盗難車を支配しその使用による利益も自身に帰属するような場合であると理解していると考えられます。 

 この最高裁の判決後に、裁判例上これが認められたケースもありますが、否定されたケースもあります。その判断材料は多岐にわたりますが、例えば、鍵の保管状況であったり、駐車の場所であったり、盗難届の有無、盗難場所から事故発生までの時間的・場所的な間隔が参照されているようです。 

 このように、判例や裁判例を前提にすれば、泥棒運転による事故に限っては、人身被害者の自賠法3条に基づく所有者に対する損害賠償請求は不法行為に基づく損害賠償請求と同様、高いハードルがあるといえるでしょう。

投稿者: 小島法律事務所

2020.03.26更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「盗難者の所有者の責任2(不法行為)」についての解説です。前稿(盗難車の所有者の責任1)で紹介した最高裁の事案をもとに解説します。

 まず、不法行為責任を定める民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。

 これを分解すると、①故意・過失権利利益侵害因果関係損害の発生の4つが不法行為の成立要件であり、これらの要件をすべて満たす場合に不法行為に基づく損害賠償請求が認められるということになります。

 この点、交通事故が発生した場合には、被害者の生命・身体・財産という権利が侵害されて、損害も発生していることが通常ですから、②④の要件はさほど問題にはなりません。

 他方で、盗難車の所有者に損害賠償責任を追及する場合には、自動車の管理に過失(管理過失)があったといえるのか(①の要件)、という点が問題となります。

 過失の認定は総合的になされるので、例えば、車は施錠して鍵は保管され、自宅敷地内にきちんと駐車されているような場合には過失は否定される方向に働くでしょうし、逆に、車が施錠されずに鍵がシリンダーに差し込んだままで路上に駐車されているような場合には、過失が肯定される方向に働くでしょう。

 さらに、仮に過失があったといえる場合でも、その過失と交通事故発生との因果関係は認められるのか(③の要件)という点も、大きく問題となります。

 この因果関係の判断は、単純にあれなくばこれなし(盗まれなければ事故は起きなかった)という大雑把な枠で判断されるものではなく、社会通念上、その過失から損害が発生するのが当然に予測させるものであるか、という観点からなされます(相当因果関係)。 

 たとえば、車が盗まれた直後に、目の前にある電柱に衝突したような事案だと、因果関係を肯定する方向に働くでしょうし、1日乗り回したうえで、盗難の現場から1000km離れたところで事故が起きたような事例だと、因果関係を否定する方向に働くでしょう。 

 そして、この過失(①)と因果関係(③)が認められるかという点について、前稿で紹介した令和2年1月21日の最高裁判決と、これに至る地裁判決、高裁判決は、以下のとおり、それぞれ三者三様の異なる判断を示しました。

 まず地裁判決(東京地裁平成30年1月29日 自保2017号162頁)は、車の施錠を怠っていたことや、鍵を車内のサンバイザーに挟んだままにしていた点などから、所有者の管理過失(①の要件)があると認定しました。

 他方で、因果関係(③の要件)を否定し、被害者の損害賠償請求を否定しました。すなわち、車が盗難にあうという過失自体と、盗難を行った犯人が居眠り運転の末に事故を引き起こしたこととは、因果関係にないという判断を行ったということです。 

 これに対して、高裁判決(東京高裁平成30年7月12日)は、過失(①の要件)は第一審と同様に認めました。

 さらに、自動車の盗難、盗難運転者の居眠り、事故の発生という一連の流れが所有者に予見することができたとして、因果関係(③の要件)も肯定し、被害者に対する車の所有者の損害賠償責任を認めました。 

 そして、最高裁は、車の所有者は「自動車が盗まれることを防止する措置を講じており、管理上の過失は認められない」と認定し、そもそも所有者の管理過失(①の要件)がないという判断を行い、車の所有者の損害賠償責任を否定しました。 

 判決文が手元にないため、推測ですが、無施錠で車内に鍵を置いたままだったとはいえ、サンバイザーに挟んでおり外部からは一見するとわからない状態だったことや、社員寮の敷地内に駐車していたため、通常は外部の人間が立ち入ることが考えられなかったことなどがその判断の理由だと考えられます。 

 この一連の流れから分析すると、盗難車の所有者に対する事故被害者の不法行為に基づく損害賠償請求が認められるには、①管理過失と③因果関係について特に高いハードルがあることが見て取れるといえます。特に①管理過失については、相当の事情がなければ認められないものと考えられます。

投稿者: 小島法律事務所

2020.03.26更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「盗難車の所有者の責任 1」についての解説です

 令和2年1月21日、個人的に注目の最高裁判決が出されました。 

 この事件は、会社の寮の敷地内に駐車していた車両(ドアはロックされておらず、鍵はサンバイザーに挟まれていました)が深夜に盗難の被害に遭い、盗難から約5時間後に、盗難した犯人が居眠り運転により物損事故を起こしたというものです。そして、その事故の被害者が、盗難車の所有者の車の管理に問題(過失)があったと主張し、所有者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求しました。 

 これについて裁判所は、1審、高裁でそれぞれ判断が分かれていたところ、最高裁は、盗難にあった所有者の車の管理過失自体がなかったとしてその請求を棄却しました。

 この点、車の所有者の側からすると、車が盗難にあったうえ事故まで起こされて、さらにその事故の損害賠償責任まで追及されるのは、納得しがたいというのは当然だといえます。 

 しかし他方、事故に巻き込まれた被害者からすると、盗難を行うような人の賠償能力は不十分なことも多いと考えられますから、可能ならば所有者の管理責任も追及して、確実に賠償を受けたいと考えるのも理解できます。 

 この点、このような事故の類型を無断運転といい、とりわけ本件のような車が盗難にあっているケースを泥棒運転ともいいます。

 そして、泥棒運転による事故の被害者が、盗難車の所有者に対して損害賠償を請求する手段は法律上、民法の不法行為に基づく損害賠償請求と、自賠法による運行供用者責任に基づく損害賠償請求の2つの手段が考えられます。 

次回以降で、不法行為責任と運行供用者責任についてそれぞれ解説します。

投稿者: 小島法律事務所

2020.03.19更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「全損」について、概説します。 

 自動車事故によって乗っていた車が損傷した場合に使われる全損という概念は、大きく分けて物理的全損と、経済的全損の2つの意味があります(ただし、ほとんどの場合の全損とは経済的全損のことを指します)。

 まず、物理的全損とは、車が物理的に(現在の技術では)修理不能な状態をいいます。 

 他方で、経済的全損とは、経済的に修理が不能な状態をいいます。すなわち、技術的には車両の修理は可能でも、修理費用が車両の時価額及び買替諸費用を上回り、修理を行うよりも買い替える方が安く済む場合には、修理を行う経済合理的はありません。そのような状態が、経済的に修理が不能な場合、すなわち経済的全損といわれる状態なのです。

 ちなみに、買替諸費用として、車両購入にかかる消費税、自動車取得税、自動車重量税、登録手続費用とその代行費用、車庫証明手数料とその代行費用、納車費用、廃車費用などが認められることがあります

投稿者: 小島法律事務所

2020.03.12更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「損害賠償請求の際に参照する書籍」についての解説です。

 交通事故による損害賠償請求を行う際には、「民事交通事故訴訟 損害賠償請求額算定基準」(いわゆる「赤い本」。上巻と下巻に分かれています)と「交通事故損害賠償額算定基準」(いわゆる「青い本」)を参照することが多いです。当職の場合、傷害慰謝料の算定について赤い本(上巻)により算出していますので、人身事故の事案では、1度は赤い本(上巻)を開くことになります。

 また、青い本は、項目立てがすっきりしていて読みやすく、特に、人身傷害保険金の先行払いと過失相殺については、図で説明してくれているので、わかりやすくなっています。

 この2冊が改訂され、最近、当職の手元に届きました。ちなみに赤い本は毎年、青い本は2年に1回改訂されています。ざっと見た感じでは、赤い本は訴状の作成例が上巻から下巻に移り、青い本は、裁判例の紹介の行間が詰まったおかげで、文字がかなり小さくなった印象を受けるようになりました。

 赤い本の訴状の作成例は、弁護士登録当初からよく参照しているので、上巻を見て、「訴状の作成例がなくなったのか」と思い、驚きましたが、無事、下巻で見つけました。

 交通事故の場合は、費目を落としたり計算を間違えたりしないために、慣れてきたとしても、赤い本(下巻)の訴状の作成例を参照することは大切だと思います。

投稿者: 小島法律事務所

2020.03.06更新

 飯塚の小島法律事務所より、弁護士による「乗り物の最高制限速度」についての解説です。

 道路交通法において、自動車、原付、自転車は、いずれも「車両」に分類されています(道路交通法2条8号、同11号)。以下では、道路上でそれぞれの車両が出すことのできる最高制限速度を説明します。

その1 自 動 車

 一般道における最高制限速度は、標識がある場合を除き、普通自動車は時速60km(法定最高速度)、標識がある場合にはそれに従います(指定最高速度(道路交通法22条1項、同施行令11条))。

 他方で、高速道路での最高速度は、普通自動車は時速100kmが最高速度です(施行令27条1項1号ニ)。 

 ちなみに、緊急車両は一般道では時速80km(施行令12条3項)まで出すことができますが、高速道路では時速100km(施行令27)と普通自動車と同じです。

その2 原 付

 原付の法定最高速度は時速30kmと規定されています。 

 では、例えば標識によって指定速度が時速40kmである道路で、原付も時速40kmまで速度を出せるのでしょうか。皆さんご存じのとおり、それは許されません。

 なぜなら、原付の場合には、標識による指定最高速度が法定最高速度を下回る場合にはそれに従い、上回る場合にはそのまま法定最高速度が最高制限速度になると定められているからです(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令別表1 規制標識 最高速度(323))。

 したがって、いずれにしても、原付は時速30km以上の速度を出すことは許されません。

その3 自 転 車

 自転車は、自転車は軽車両(2条11号)という車両(2条8号)の一種ですから、道路交通法の速度制限を当然に受けます。ただし、自動車や原付のような法定最高速度の規定は、自転車にはありません(法定最高速度を定める施行令11条は、軽車両を対象としていないためです)。

 よって、法令上は、標識などによって指定されている指定最高速度にのみ従う必要があるといえます。

 ですので、複数車線の国道などで標識による指定最高速度の指定がない道路の場合、自転車は自動車よりも高速度で走行しても、速度制限の違反とはいえないことになります(ちなみに、現在のギネス記録では、自転車は時速約300kmで走行することが可能だそうです)。

 ただし、仮にそのような速度で道路を走行した場合には、安全運転義務違反(70条)等の道路交通法上の別の条文に基づいて制限・罰則を受ける可能性は高いと考えられますので、無制限ということはありません。

投稿者: 小島法律事務所

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