2021.06.11更新

 今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「物損に関連する慰謝料」についての解説です。

 交通事故による怪我で、人的損害が発生した場合、被害者は加害者に対して傷害慰謝料を請求することになります。
 では、交通事故で、物的損害のみの場合、被害者は加害者に対して慰謝料を請求することができるでしょうか。

 

【物的損害に関する慰謝料】
 物損に関連する慰謝料については、赤い本では、「原則として、認められない。」と記載されています。
 この点、交通事故の事案ではありませんが、財産上の損害に関する慰謝料について、最高裁判所の判決では、『一般には財産上の損害だけであり、そのほかになお慰藉を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには、被害者(上告人)が侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならない』と判示しています(最高裁判所昭和42年4月27日・裁集民87号305頁)
 ですから、原則としては、物損に関連する慰謝料は認めらませんが、「財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情」が存在する場合には、慰謝料が認められると思われます。

 

【物損に関して、慰謝料が認められた例】
 ここで、物損に関する慰謝料が認められた事例を紹介します。
 事案は、霊園における墓石等に対する衝突事故により墓石が倒壊し、骨壺が露出する等した事案です(大阪地方裁判所平成12年10月12日判決・自保ジ1406・4)。

 この事案において、裁判所は、「一般に、墓地、墓石等は、先祖や故人が眠る場所として、通常その所有者にとって、強い敬愛追慕の念を抱く対象となるものということができるから、侵害された物及び場所のそのような特殊性に鑑みれば、これを侵害されたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料も損害賠償の対象になるものと解するのが相当である。」と判示し、慰謝料として10万円を認めています。

投稿者: 小島法律事務所

2021.06.04更新

 今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「傷害慰謝料」についての解説です。

 交通事故によって、怪我を負い、その怪我の治療のために入院や通院を余儀なくされてしまった場合、その怪我や入通院による精神的苦痛は、傷害慰謝料という形で、加害者に対して、損害賠償請求を行います。

 この傷害慰謝料の算定については、実務では、赤い本に記載されてある入通院慰謝料表(通称別表)を基準に、治療期間に応じて金額を算出します。
 この別表は、慰謝料の目安表であり、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類あります。そして、怪我の程度によって、表を使い分けます。
 なお、別表Ⅱよりも別表Ⅰで算定した方が、傷害慰謝料の金額は高くなります。

 ですので、傷害慰謝料の算定では、別表Ⅰと別表Ⅱのどちらを使うか、治療期間はどの様に算定するのかが問題となることが特に多いです。

 

【表の使い分け】
 赤い本によると、『傷害慰謝料については、原則として入通院期間を基礎として別表Ⅰを使用する。』『むち打ち症で他覚所見がない場合等は入院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。』と、原則として別表Ⅰを使用し、例外として別表Ⅱを使用するとしています。
 そして、『「等」とは軽い打撲・軽い挫創(傷)の場合を意味する。』としています。

 ですので、大事故でない場合によく生じるむち打ちや軽い打撲の場合には、別表Ⅱを使用することになります。

 

【治療期間について】
 先ほどの説明の通り、別表Ⅰと別表Ⅱのいずれも、慰謝料の算定の基礎となる治療期間については、「入通院期間」としています。
 なお、入通院期間とは、治療を開始した日から治癒した日または症状固定日(症状固定については、過去ブログを参照してください。)になります。

 ですが、症状、治療内容、通院頻度は、個別事情であり、場合によっては治療が長引くこともあります。そのため、治療状況によっては、入通院期間すべてが、慰謝料の算定の基礎となるのか問題となります。

 この点、赤い本によれば、別表Ⅰについては、『通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえて実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある』としています。また、別表Ⅱについては、『通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。』としています。

 ここで気を付けていただきたいことは、実通院日数の3倍または3.5倍の期間を対象とするのは、あくまで例外であって、原則は入通院期間であることです。

 そして、「長期」とされる期間の目安については、青い本が『通院が長期化し、1年以上にわたりかつ通院頻度が極めて低く1か月に2~3回程度の割合にも達しない場合…前記基準表をそのまま機械的に適用できない。』と記載していることからすれば、1年が目安になると思われます。

 ですので、傷害慰謝料の算定おいては、多くの場合、実通院日数の3倍または3.5倍ではなく、入通院期間を用いて、金額を算定することになると思われます。

 

投稿者: 小島法律事務所

2021.05.28更新

 今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「修理費と消費税」についての解説です。

【修理費と消費税】
 交通事故に遭い、車両が損傷した場合には、被害者は加害者に対して、損害賠償請求を行うことになります。
 修理する場合には、修理費用に加えて、修理費用に関する消費税がかかります。
 そのため、交通事故における修理に関する損害は、修理費用+消費税 となります。
 この点、損害賠償請求を行い、修理費相当額のお金を回収できた場合、実際にそのお金を修理費に充てて修理するか、修理せずにそのままにしておくかは、被害者の自由です。
 ですので、実際に修理するかは、認定された賠償額を確認してから決めるとして、損害賠償請求時には、修理未了の場合もあります。

 そこで、修理未了の場合も、修理費用に加えて修理費用の消費税も、交通事故による損害として認められるか問題となります。

 

【修理未了の場合の消費税】
 修理未了の場合の修理費の消費税については、交通事故による損害と認めた判例があります。このうちの1つをご紹介します。

〇東京地裁平成29年3月27日判決・交通民事裁判例集50巻6号1641頁
 この判例の事案は、マンションの駐車場内で,被告が普通乗用車を駐車するため後退させていたところ,駐車中の原告所有車両(1966年製メルセデスベンツ)に衝突させた事故で,原告が物損請求をした事案です。
 そして、修理未了の場合の修理費の消費税については、『修理費用については,被害者が修理する場合に要する費用が損害となるから,反訴原告が現に反訴原告車両を修理していないとしても,消費税を控除する理由はない。』として、修理費の消費税についても、交通事故による損害として認めています。

投稿者: 小島法律事務所

2021.05.20更新

 今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「令和2年賃金センサスの掲載の誤り」についての御連絡です。

 厚生労働省が令和3年3月31日に公表した「令和2年賃金構造基本統計調査」(いわゆる、賃金センサス)について、厚生労働省から、数値が誤りであった旨の報告なされています。

 報告内容は『賃金構造基本統計調査では、労働者の雇用形態、年齢、性別などの属性と賃金の関係を明らかにする目的に鑑みて、調査月に18日以上勤務しているなどの要件を満たした労働者のみを集計の対象としております。新型コロナウイルス感染症の影響により、例年と比べて要件を満たす労働者の割合が減少しており、公表値もその影響を受けている可能性がありますため、結果の活用にあたってはご留意ください。
 「公的統計の整備に関する基本的な計画」(平成30年6月3日閣議決定)にて定められた「今後5年間に講ずる具体的施策」として、賃金構造基本統計調査における調査対象職種の見直しや学歴区分の細分化、回収率を考慮した労働者数の推計方法の変更などが挙げられたことを受け、令和2年調査より一部の調査事項や推計方法などを変更しました。このため、これまでの公表値との比較には注意が必要です。』となります。

 したがいまして、変更後のものが掲載されるまでは、本件事故が令和2年に生じたものであっても、令和元年の賃金センサスを使わざるを得ません。また、変更後の内容も、従前の調査方法とは一部異なるため、令和2年の賃金センサスを使用する際には注意が必要となります。
 なお、変更後の令和2年の賃金センサスは、令和3年5月21日に再集計後の結果表を掲載予定とされています。

 

投稿者: 小島法律事務所

2021.04.30更新

 今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「黄点滅信号の規制」についての解説です。

 

【黄点滅信号の規制】
 交差点において、一方は黄点滅を、交差道路には赤点滅の表示のある信号を見かけることがあると思います。

 道路交通においては、赤点滅は「一 歩行者は、他の交通に注意して進行することができること。二 車両等は、停止位置において一時停止しなければならないこと。」と、黄点滅は「歩行者及び車両等は、他の交通に注意して進行することができること」との意味があります。(道路交通法施行令2条1項)

 そして、黄点滅について、刑事の裁判例ではありますが、裁判例では「黄色点滅信号の意味するところは、点滅のない黄色の点灯の信号と異なり、自動車運転者は必ず徐行、停止しなければならないというものではなく、四囲の交通の状況に気を配り、人車と接触のおそれがないときは、そのままの速度で直進することを妨げないが具体的状況の推移に照応し適宜の措置にでるため、他の交通に十分意を配り、交差点内で他の車両等との接触、衝突等事故発生のおそれがある場合には、交差点内において徐行するなどして極力これを回避するよう十分注意しなければならないとするにある。」と判示しているものもあります(東京高等裁判所昭和43年4月9日判決)。

 したがいまして、交差点内に、黄点滅信号が存在している場合、交差点の状況によっては、黄点滅信号側の運転者に対しても、徐行義務等が課される可能性があります。

 

【裁判例】
 ここで、点滅信号のある交差点において、交差点の状況に応じて、黄点滅信号側の運転者に、減速・徐行義務を課した裁判例をご紹介いたします。

『広島地方裁判所平成2年9月26日判決自保ジャーナル・判例レポート第92号-No,8』

 当該裁判例の事例は、広島市内の点滅信号のある交差点内において、制限速度の倍以上の速度で走行していた黄点滅信号側の乗用車が、そのままの速度で交差点に進入し、赤点滅信号の交差点を横断していた自転車に、衝突した事例です。

 当該裁判において、裁判所は、本件交差点の状況を「本件道路から本件交差点の見通しは、左方の本件交差道路方面の見通しが悪く、同様に、交差道路からも、本件道路の右方の見通しが悪かった。」と、本件交差点の左方の見通しが悪いことを認定しました。なお、本件道路は、乗用車が進行していた道路で、交差道路は、自転車が進行していた道路になります。

 そして、本件交差点の状況を踏まえて、裁判所は、「対面信号が黄色点滅であったとしても、本件交差点の左方の見通しが悪かったのであるから、減速・徐行する義務があったのにこれを怠り」と判示し、本件交差点に進入するにあたって、黄点滅側を走行していた乗用車の運転者に、減速・徐行義務が課されていたことを認めました。

投稿者: 小島法律事務所

2021.04.16更新

 今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「後遺障害逸失利益」についての解説です

【後遺障害逸失利益とは】

 交通事故で後遺障害が残ってしまった場合に、後遺障害により労働能力が一定程度制限されることがあります。
 労働能力が制限されると、後遺障害がない健康体で働き続けた場合と比べて将来受け取ることができた収入が減少してしまいます。
 この様に、後遺障害によって減少した利益を後遺障害逸失利益といいます。

【後遺障害逸失利益の算定方法】

1 後遺障害逸失利益の算定方法

 後遺障害逸失利益は、

 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数


 で算定されます。

2 基礎収入

 逸失利益選定の基礎となる収入は、原則として事故前の現実の収入を基礎とします。
 ですが、将来、現実収入額以上の収入を得られる立証があれば、その金額が基礎収入となります。
 なお、現実の収入が低く、賃金センサスの平均を下回っている場合には、将来、平均賃金を得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入として算定することもあります。

3 労働能力喪失率

 労働能力の低下の程度については、労働省労働基準局長通牒の別表労働能力喪失率表が参考にされます。そして、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に評価して評価されます。

4 労働能力期間に対応したライプニッツ係数

(1)ライプニッツ係数について

 後遺障害逸失利益は、将来、その年で得る予定の金銭を、一括前払いで受け取るものです。そして、金銭は、1年後と10年後では、その価値が異なります。そして、後遺障害逸失利益を請求する場合には、将来の利息も同時に受け取ることになります。そのため、この利息を控除する必要があるので、この控除のことを中間利息控除といいます。

 そして、労働能力喪失期間の中間利息を控除したものを数値化したものが、ライプニッツ係数となります。

(2)労働能力喪失期間について

 労働能力喪失期間の始期は、症状固定日になります。未就労者の場合には、原則として、始期は、18歳となります。なお、大学卒業を前提とする場合には、始期は、大学卒業時とされています。
 一方で、労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳とされています。

 また、症状固定時の年齢が67歳をこえている人の場合には、原則として簡易生命表の平均余命の2分の1が労働喪失期間となります。

 症状固定時から67歳までの年数が、簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる人の場合には、原則として平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。

 なお、労働能力喪失期間の終期は、職業、地位、健康状態、能力等により原則と異なった判断がなされる場合もあります。

投稿者: 小島法律事務所

2021.04.02更新

 HONDAが、令和3年3月5日に、自動運転レベル3搭載の自動車「LEGEND」を発売(現在はリース専用車両のみ)したことで、自動車業界が賑わっています。
今回は、飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「自動運転と道路交通法の改正」についての解説です。

【自動運転のレベルについて】
 自動運転のレベルの定義については、日本では、アメリカの「自動車技術会」(SAE)が定義したレベル0から5までの6段階のカテゴリが用いられています。
そして、自動運転レベルは、ドライバーと車両の運転比率や走行可能エリアの限定などによって、以下のとおり、レベル0からレベル5までの6段階に分類されています。

〇レベル0【運転自動化なし】
 ドライバーが全ての運転操作を実行。
〇レベル1【運転支援】
 システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作のどちらかを部分的に行う
〇レベル2【部分運転自動化】
 システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の両方を部分的に行う。
〇レベル3【条件付運転自動化】
 決められた条件下で、全ての運転操作を自動化。ただし、運転自動化システム作動中も、システムからの要請でドライバーはいつでも運転に戻れなければならない。
〇レベル4【高度運転自動化】 
 決められた条件下で、全ての運転操作を自動化。
〇レベル5【完全運転自動化】
 条件なく、全ての運転操作を自動化。

【自動運転に対する法整備】
 これまでの日本の道路交通法では、自動運転レベル3を超える車両に対する規定が存在していませんでした。
 令和元年に改正された「改正道路交通法」は、自動運転レベル3車両の実用化に対応したもので、主な改正点は以下の3点になります。

1 自動運行装置の定義等に関する規定の整備
 道路交通法2条17号の規定により、「運転」に「自動運行装置」を使用した走行、いわゆる自動運転が含まれることになりました。
 これにより、一定の条件下で、「レベル3」の自動運転が道路上で可能となります。

2 自動運行装置を使用する運転者の義務に関する規定の整備
 道路交通法71条の4の2第1項の規定により、自動運行装置に係る使用条件が満たされない場合には、自動運行装置での運転が禁止され、運転者が運転を引き継がなければならないことが明記されました。

 また、同条第2項の規定により、自動運行装置に係る使用条件が満たされる自動運行装置での運転下では、道路交通法71条第5号の5の適用がないことが明記されました。
 これにより、自動運転が許される条件下での自動運転中は、携帯電話などを使用が禁止されないことになります。

3 作動状態記録装置による記録等に関する規定の整備
 道路交通法63条の2の2第1項の規定により、作動状態記録装置が不備な状態での運転が禁止されることが明記されました。

 また、同条第2項の規定により、自動運行装置を備えている自動車の使用者に対して、当該装置に記録された記録の保存義務が存在することも明記されました。

 この規定は、自動運行装置を備えた自動車が、交通事故等にあったとき、その交通事故等の原因究明などに対応したものと考えられます。

投稿者: 小島法律事務所

2021.03.26更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「症状固定」についての解説です。

【症状固定とは】
「症状固定」という言葉は、法律に規定されている言葉ではありません。
 文字通りの意味であれば、症状が固定されたとなります。
 この点、労働者災害補償保険における「障害等級認定基準」(昭和50年9月30日付労働省労働基準局長通達)では、「「なおったとき」とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療法(中略)をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。」とされています。
 つまり、労働者災害補償保険においては、症状固定とは、医学上一般的に認められた治療方法をもってしても、治療効果が期待できない状態である場合に、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態ということになります。
 この症状固定における定義は有用と考えられているため、実務上、交通事故における損害賠償請求において、「症状固定」との言葉が使われた場合の意味も同じものになります。

【症状固定が用いられる場面】
 症状固定と判断された場合、症状固定後の治療は、効果がなく、症状を改善させるものではないため、原則として、症状固定後の治療費は、交通事故と相当因果関係のある損害としては認められません。
 また、交通事故により仕事を休むことになり、収入が減少した場合には、休業損害として損害賠償請求することになりますが、休業損害は、事故の日から症状固定日までの期間で休業した日数をもとに、その額を算定します。
 さらに、入通院したことによる慰謝料については、傷害慰謝料として、損害賠償請求することになりますが、この傷害慰謝料は、事故の日から症状固定日までの期間をもとに、その額を算定します。
 ですので、症状固定は、損害賠償請求を行う際の請求額に深く関わるものであり、請求額の算定の場面でよく用いられます。

【症状固定の日の判断について】
 症状固定は、先の通り、治療効果がこれ以上あるかが判断の1つとなっていますので、医師の判断が必要なのは、言うまでもありません。そのため、実務上、症状固定の時期については、診断・治療を行った医師が作成した後遺障害診断書記載の症状固定日を、損害賠償額算定における症状固定日とすることがあります。
 ですが、事故態様、受傷内容、治療経過等によっては、後遺障害診断書に記載された時期を症状固定日とすることに合理性が認められない場合もあります。
 その場合には、後遺障害診断書に記載された時期以外の時期を症状固定日とすることもあります。

参照文献:『損害賠償額算定基準 下巻(講演録編)2013 7頁』

投稿者: 小島法律事務所

2021.03.19更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「整骨院等での施術費用の損害賠償請求」についての解説です。

【整骨院等での施術の問題点】
 交通事故に遭った場合、被害者は、加害者に対して、治療関係費を含めて、損害賠償請求を行います。
 交通事故に遭われた方の中には、病院での治療の他に、整骨院等で施術を受けられる方もいるかと思われます。
 飯塚市でも、近年、交通事故に対応していることを看板等に記載した整骨院等が増えている気がします。
 しかし、実務上、整骨院等での施術の費用が、治療関係費として、交通事故と相当因果関係のある損害と認められるか問題となることがあります。

 

【相当因果関係が認められる要件】
 この点、整骨院等における施術は医師による治療とは異なる点が多くある上、施術内容も個々人で様々であるため、実務上、整骨院等における施術の費用は、症状の内容・程度に照らして、症状固定までに行われた必要かつ相当な治療行為の費用かとの観点から、その認否が判断されています。
 実務上は、以下の7つ要件で考えられています。

1 施術が症状固定までに行われたものであること

 ①施術が症状固定までに行われたものであること

 ②施術録に記載された施術が現に行われたこと

 

2 必要性について

 ③施術の必要性

 施術を行うことが許される受傷内容であること、従来の医療手段では治療目的を果たすことが期待できず、医療に代えてこれらの施術を行うことが適当であること等から、当該施術を行うことが当該受傷内容に必要か判断されます。

 ④施術の有効性

 施術を行ったことで、具体的な症状緩和の効果が生じているか判断されます。

 

3 相当性について

 ⑤施術内容の合理性

 施術が、受傷内容と症状にあったものか判断されます。そのため、施術期間の後半になって、施術の回数が増えるといった、過剰・濃厚に行われている場合には、この要件が否定されることになります。

 ⑥施術期間の相当性

 受傷の内容、治療経過、疼痛の内容、施術の内容及びその効果の程度などから、施術を継続する期間が相当であるか判断されます。

 ⑦施術費の相当性

 施術の報酬金額が社会一般の水準と比較して妥当なものか判断されます。

 

【医師の指示の有無について】
 実務上、医師が患者に対して整骨院での施術を受けるように指示している場合は、医師が患者の治療方法の1つとして柔道整復師の施術を積極的に選択したことを意味するので、特段の事情がない限り、上記必要性にあたる③④があることを強くうかがわせる事情となると考えられています。なお、あくまで、医師の指示は、必要性に関する事情ですので、医師の指示があったとしても、相当性に対応する⑤⑥⑦が認められなければ、施術費の全額は交通事故による損害として認められません。
 一方で、医師の指示がなかったとしても、医師の指示は、必要性をうかがわせる事情に過ぎませんので、当該施術費に①から⑦の要件が認められれば、施術費が交通事故による損害として認められます。

参照:『交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ』
   『損害賠償認定額算定基準 下巻(講演録編)2018』

投稿者: 小島法律事務所

2021.03.12更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「オートライトの義務化」についての解説です。

【オートライトの義務化】

 道路運送車両の保安基準が改正され、新型車は2020年4月から、継続生産車は2021年10月から普通乗用車のオートライトの装備が義務化されます。
オートライトとは、周囲の明るさに応じて、ライトの点灯/消灯を自動的に行ってくれる機能のことです。

 

【改正点】

 今回の改正で定められたオートライトに関する主な新保安基準としては、以下の3つが挙げられます。

①周囲の照度が1,000ルクス未満になると、2秒以内に点灯する
 なお、1,000ルクスの照度とは、JAFの説明によると、信号や他車のブレーキランプなどの点灯が周囲から目立ち始める時の明るさとされています。イメージとしては、夕暮れの暗くなり始めるころの時間帯になります。

②周囲の照度7,000ルクス以上になると、5秒から300秒以内に消灯する
 点灯から消灯までの応答時間は自動車メーカーに委ねられています。

③走行中、手動でオートライト機能を解除することができない(ただし、駐停車状態にある場合は消灯可能)

 

【オートライトの義務化の背景】

1 従来のオートライト機能には、メーカーや車種によってライトの点灯タイミングに差があり、明確な基準がありませんでした。そのため、同じ時間帯なのに、ライトが点いている車と無灯火の車が混在している状態でした。

2 また、ヘッドライトを付ける時間帯については、道路交通法は、「夜間(日没時から日出時までの時間をいう。)」と定めています(道路交通法52条1項)。この「日没から日の出までの時間」については、日付や場所によって様々で、その時間を把握することが困難なこともあり、ドライバー個人の感覚でヘッドライトを点けていた状態が多かったと思われます。そのため、法的には夜間にあたる時間帯でも、無灯火で走行している車両も少なくありませんでした。

3 さらに、都市部や市街地では、道路の照明や店舗の照明が多くあるため、ドライバーが回りの明るさに気付かずに無灯火で走行してしまう場合もあります。

これらを背景としたヘッドライトの無灯火を原因とする事故を防止するために、今回のオートライトの義務化が行われることになりました。

投稿者: 小島法律事務所

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