2021.02.19更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「給与所得者の休業損害 その3 年次有給休暇の使用と休業損害」についての解説です。

給与所得者の休業損害その1』を見て頂くと、より分かりやすくなります。

【休業損害の算定方法】
 休業損害を算定する方法としては、(1)休業により現実に生じた減収額を算定する方法と(2)事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります。

 (2)の計算方法の場合は、実務上、下記の3つの考え方のいずれかが用いられます。
①休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方法
②休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際に休業した日数を乗じる方法
③休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法

 これらの考え方は、どれかかが常に適しているという関係にあるのではなく、給与所得者の休業状況、収入日額の立証の難易度、正確な収入日額の算定の難易度等に応じて使い分けて用いられます。

【年次有給休暇について】
 年次有給休暇は、労働基準法39条に規定されています。
 そして、労働者が年次有給休暇を使用した場合、使用者は、就業規則等で定めるところにより、平均賃金、通常賃金、これらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金又は健康保険法上の標準報酬日額を支払うべきこととされています(39条9項)。
 また、実務上、年次有給休暇は、財産的価値を有するものされています。

【年次有給休暇の使用は損害か】
 裁判実務において、年次有給休暇使用分を休業による損害として認められることについては争われないことが多く、判決においても、休業日に年次有給休暇を使用して収入の減少を免れた場合、年次有給休暇使用分は休業による損害として評価されています。
 そして、年次有給休暇使用分を休業による損害とする根拠については、①年次有給休暇を使用しても、休業損害が発生しているとして、年次有給休暇を使用せずに休業した場合と同様に考える考え方と、②年次有給休暇を使用する権利または利益を喪失したとして、その喪失または使用せざるを得なかったことを損害として認める考え方があります。
 なお、判決においては、①と②のいずれかの考え方を採用したかが明示されていないことがほとんどです。

【年次有給休暇を使用した場合の算定方法】
 年次有給休暇を使用した場合の額は、就業規則等により定められていますので、その規定に従って、1日あたりの金額を計算できると思われます。
 ですから、年次有給休暇を使用して休業した日の休業による損害は、有給休暇を使用せずに休業した日の休業損害の計算方法と同様の方法で算定されることがほとんどです。

【通院等のために休日等を利用した場合との違い】
 通院等で労働契約上の休日を利用した場合も、年次有給休暇を使用した場合と同様に、休業損害として算定されるのか問題となります。
 この点、労働契約上の休日は、年次有給休暇とは異なり、労働契約に基づく給与の支払いに直接関係するものではありません。また、通院等のために要した時間は、慰謝料算定の考慮要素とされています。
ですから、労働契約上の休日は、年次有給休暇と同じ程度に、具体的な財産的価値を有しているとは考え難く、休業損害として算定されないと思われます。

【参照書籍:『損害賠償額算定基準下巻(講演録編)2018(平成30)』40~43頁】

投稿者: 小島法律事務所

2021.02.12更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「給与所得者の休業損害 その2 日雇労働者とアルバイトの場合」についての解説です。

 前回に続き、給与所得者の休業損害について解説いたします。
 前回の『給与所得者の休業損害その1』を見て頂くと、より分かりやすくなります。

【給与所得者の休業損害の計算方法】
 休業損害の計算方法としては、事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります。
 この計算方法の場合は、実務上、下記の3つの考え方のいずれかが用いられます。
①休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方法
②休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際に休業した日数を乗じる方法
③休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法

【給与所得者が就労しながら一定の頻度で通院を行っている場合】
 日雇労働者やアルバイトの方々は、労働契約上、実際に労働した時間に応じた金額の給与が支給されているはずなので、適切な証拠があれば、事故前に実際に労働した単位時間(実労働日1日)当たりの基礎収入を算定することが可能と思われます。

 そして、アルバイトで給与を得ている方の多くは、労働契約上、各週・月のどの日に勤務するかが概ね決まっていると思われます。その様な方々が事故に遭わなかった場合、事故に遭われた方は、どの日に労働していたかを認定することができると思われます。そのため、②の計算方法で休業損害を算定することができます。

 ですから、このような場合に被害者側が②の計算方法で算定した休業損害を請求しているにも関わらず、③の計算方法を採用することは、休業損害を過少に認定することになりますので、適切とはいえないと考えられます。

 他方で、日雇労働者の方々は、通常、短期の契約を予定していることが多いと思われます。そして、その様な方々は、事故の発生の時点で、将来どの日に労働するかが決まっていないことが多いと思われます。また、アルバイトの方々の中にも、労働契約上、各週・月のどの日のどの時間に勤務するかかが決まっていない方もいると思われます。

 この様な形態の給与所得者の方々については、証拠上、事故に遭わなかった場合、どの日に労働をしていたかを認定することが困難であるため、②の計算方法で休業損害を算定することが難しいとされています。

 しかし、この場合でも、事故に遭わなかった場合と比較して、通院等によって、その分の労働の機会を失い、現実の収入が減ったとみることができますので、休日を含んだ一定期間の給与の平均日額を基礎収入とし、これに通院日等を乗じる方法(③の計算方法)で休業損害を算定することができると考えられます。

【参照書籍:『損害賠償額算定基準下巻(講演録編)2018(平成30)』39、40頁】

投稿者: 小島法律事務所

2021.02.05更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「給与所得者の休業損害 その1」についての解説です。

 休業損害とは、事故によって怪我をした際、その怪我によって休業したために支給を受けられなかった減収分(差額)を損害とするものです。

 休業損害を算定する方法としては、(1)休業により現実に生じた減収額を算定する方法と(2)事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります。
 (2)の計算方法の場合は、実務上、下記の3つの考え方のいずれかが用いられます。
①休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方法
②休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際に休業した日数を乗じる方法
③休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法

 これらの考え方は、どれかかが常に適しているという関係にあるのではなく、給与所得者の休業状況、収入日額の立証の難易度、正確な収入日額の算定の難易度等に応じて使い分けて用いられます。

 ここからは、休業損害でよくあるケースで説明します
【ケース1】給与所得者が継続して完全休業する場合
 休業損害を正確に算定するため、②の方法によるべきとの考え方もありますが、完全休業の期間がある程度長期の場合は、①でも②でも、結論に大きな差は出ないので、いずれの方法でもよいとされています。


【ケース2】給与所得者が就労しながら一定の頻度で通院していた場合
 給与所得者は、休業損害証明書等の適切な証拠がある場合には、事故前の給与の金額に基づいて実労働日1日当たりの平均給与額を算定することができる上、労働契約によって、就労すべき日が定められているため、通院をした日のうち、交通事故がなければ就労していた日はいつなのかが認定できます。ですから、被害者側が②の計算方法で算定した休業損害を請求しており、証拠上、事故前の具体的な稼働日数、支払を受けた給与の金額を認定できる場合には、②の計算方法によるのが相当です。

 一方で、休業損害証明書が提出されないなどの事情等で、証拠上、実労働日1日当たりの平均給与額を認定することができない場合には、③の計算方法によって休業損害を算定せざるを得ないことも考えられます。この場合、事故前年の源泉徴収票記載の給与額を365日で割った金額を基礎収入とし、これに実際の休業日数を乗じる方法等が用いられます。

 なお、休業損害証明書が発行されない場合でも、就業規則や事故前年度の源泉徴収票等を用いて、②の計算方法で算定することも考えられます。

【参照書籍「損害賠償額算定基準 下巻(講演録編)2018(平成30年)」37頁】

投稿者: 小島法律事務所

2021.01.22更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「車両の全損と車両価格の算定」についての解説です。

 交通事故の被害で自分の車両が損傷した場合、加害者に対して、車両の損害について損害賠償請求を行うことになります。今回は、車両が全損となった場合について解説します。

 まず、車両の全損として請求できる場合は、以下の3つのいずれかにあたる場合です。
①被害車両が物理的に修理不能と認められる状態(物理的全損)
②被害車両が経済的に修理不能と認められる状態(経済的全損)
③被害車両の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるとき

 ①物理的全損とは、整備修理技術者がみて修理ができないと判断する場合です。具体的には、手の施しようがないほど、激しく損傷している状態や、損傷が修理技術の水準を超えていて技術的に修理できない場合が、これにあたります。
 ②経済的全損とは、技術的に修理が十分可能であるが、その修理見積額が事故直前の車両時価(消費税相当額を含む)に車両買替諸費用・残存車検費用・廃車解体費用を加算した額を著しく上回る場合です
 ③社会通念上相当と認められるときとは、社会一般で受け容れられている常識または見解のことで、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことが客観的に認められる場合です。そのため、事故にあった車両は縁起が悪いや色むらが出るといった理由等での買替えは、社会通念で否定されることがあります。

 車両を全損として請求する場合、車両時価額の算出が特に問題となります。
 この車両時価額は、判例では、「当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべき」(最高裁昭和49年4月15日判決 民集28巻3号385頁 交民集7巻2号275頁)としています。そして、裁判所は、価格算出の際の参考としては、第1次的にはオートガイド自動車価格月報(通称レッドブック)の掲載価格を、第2次的には中古車両の市場価格を参考にする傾向にあります。
 また、自動車の初年度登録から長期間が経過し、車両の中古車市場における価格を算定すべき適切な資料がない場合等の特段の事情がある場合には、課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることになります。

投稿者: 小島法律事務所

2021.01.07更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「駐車場での事故における過失相殺」についての解説です。

【過失相殺とは】

 過失相殺の定めである民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」としています。これは、被害者側にも過失があったときは、損害賠償額算定にあたって、その過失を斟酌するというものです。

 その斟酌にあたっては、加害者の過失と被害者の過失との対比により過失の割合を評価します。

 

【交通事故における過失割合】

 道路交通法が適用される場合の過失の考慮要素としては、①「優先関係」②「遵守事項」③「優者の危険負担」④「要保護者修正」⑤「運転慣行」が挙げられます。   

 ①優先関係とは、道路交通法上の優先関係です。

 ②遵守事項とは、道路交通法上の規定事項です。

 ③優者の危険負担とは、交通事故の際の各当事者の行為の態様や程度が同じ様な過失の場合は、優者が危険を負担すべき、という考え方です。具体的には、人か車なら車に、単車と車なら車にと、より加害の危険性の大きい方が、責任を負担するというものです。

 ④「要保護者修正」とは、幼児・児童・高齢者・障がい者等、社会生活上、通常人よりも自己の安全を守る能力の低い人たちの過失の取り扱いについては、有利に扱うとするものです(道路交通法14条、71条2号、2号の2、2号の3)。

 これらの要素のもと、過失割合を数値化した基準を示したものが、『損害賠償額算定基準』(いわゆる赤い本)等になります。道路交通法が適用される交通事故については、これを基準として適用し、過失割合が出されることが多いです。

 

【駐車場内の事故における過失割合】

 道路交通法が適用されるのは、「道路」での通行だけです(道路交通法1条)。道路交通法上、「道路」とは、道路法2条1項に規定する道路、道路運送法2条8項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所である(道路交通法2条1項1号)とされています。「一般交通の用に供するその他の場所」とは、判例上「不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所」であるとされています。「不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所」は、実務上、①道路としての体裁があり、②不特定の人や車の通行が自由に通行すること認められて、かつ、③反復・継続的な交通が客観的にわかる場所であるかで判断します。そのため、駐車場は、道路交通法上の「道路」とであるものとそうではないものが存在することになります。

 しかし、「道路」でない駐車場内において、運転者は、車を運転している以上、道路交通法に定められている運転・通行方法等や駐車場内での通行方法に従うだろうと期待し、それを前提に行動するのが通常です。そのため、道路交通法上の「道路」にあたらない駐車場内においても、運転者は、駐車場の客観的状況等から道路交通法上の義務と同様の義務を負うことが多いとされています。ですから、駐車場内の事故でも、交通事故の様に、過失割合を判断します。

 駐車場における事故の過失割合を決定するにあたっては、注意義務違反の有無、不注意の程度、駐車場内で決められた通行方法の指示・遵守事項の違反の有無、優者の危険負担や要保護者修正等も考慮されます。これらをもとに、過失割合を数値化します。

 駐車場は、多種多様なため、画一的に基準を決めるのが、難しいところがあります。そのため、具体的な数値については、裁判例や関連書籍等をもとに、類似例がないか調査し、判断することになります。

投稿者: 小島法律事務所

2020.12.24更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「自転車によるあおり運転」についての解説です。

 埼玉県において10月、道路交通法であおり運転の処罰規定が新設されて初めて、自転車によるあおり運転を行ったとして通称「ひょっこり男」と呼ばれる男性が逮捕されました。11月には同罪で起訴もされています。

 この事件は、自転車を運転していた男性が、道路を蛇行運転したうえで、対向車線を走る車の前に飛び出し、対向の車を急停車させるなどしたものです。

 道路交通法では、中央線のある道路の反対車線にはみ出すのは通行区分違反(17条4項)です。同項の対象は「車両」ですが、自転車は軽車両(2条11号イ)という「車両」(2条8号)ですから、もちろん違反の対象となります。

 そして、他の車両等の通行を妨害する目的で、車両が通行区分違反を行うなどのあおり行為を行った場合、いわゆる「あおり運転」として処罰の対象となりえます(117条の2の2第11号イ)。罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

 報道された映像を見る限りでは、今回逮捕された男性は、故意に反対車線の車両の前に出ているように見受けられますから、「他の車両等の通行を妨害する目的」があったことが伺われます。

 今回のように、あおり運転として禁止されている行為の多くは、自動車のみならず、自転車を運転する人もその対象になります。また、あおり運転といえば後方から相手に急接近するような形態を思い浮かべますが、対向車線などからのあおり行為も、あおり運転に該当することがあります。

自転車を運転する方も、これらの点に留意して、気を付けて運転するべきだといえます。

 ちなみに、仮に自転車のあおり運転が原因となって自動車との衝突事故が発生し、自転車に乗っていた人が怪我をしたような場合には、自動車側の過失が否定され、自転車側からの賠償請求はできないという事態に陥る可能性もありえます。過去には、あおり運転を行った者からの損害賠償請求が否定された裁判例もあります(詳しくはこちら)。

投稿者: 小島法律事務所

2020.12.17更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「自転車保険の義務化」についての解説です。

2020年10月から、福岡県で条例(正式名称は福岡県自転車の安全で適正な利用の促進及び活用の推進に関する条例です。以下では、単に「福岡県自転車条例」といいます。)により自転車保険の加入が義務化されました(福岡県自転車条例17条1項)。自転車保険の加入義務化は、2015年に兵庫県が取り入れたのを皮切りに、大阪府、滋賀県、東京都、神奈川県など20以上の都府県と政令市でなされています。

 この点、自転車条例で加入が義務付けられている自転車保険は、「自転車保険」という名称の保険に限らず、個人賠償保険や自動車保険の特約など、広く自転車事故による事故の被害者の損害を賠償しうる保険・共済であればよいとされています(福岡県自転車条例2条13号)。

 また、自転車保険に加入すべき義務者は①自転車を使用する者(未成年の場合は親権者)(福岡県自転車条例17条1項、2項)②事業に際し労働者に自転車を使用させる事業者(同3項)③自転車貸付業者(同4項)となっています。

 ただし、上述した義務に違反したからといって、何らかの罰則が設けられているわけではありません。

 とはいえ、自転車での事故は、時として1億円にも上る賠償責任が生じることもありますから、自転車保険に加入されていない方は、加入をされた方がよいと思います。

投稿者: 小島法律事務所

2020.12.17更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「自賠責の20万円ルール」についての解説です。

 自賠責の保険金が被害者の過失によって減額される場合(重過失減額)は、通常とは異なる特殊な減額の計算がされます(詳しくは前回の記事をご参照ください)。

 そして、自賠責の保険金が、重過失減額の対象となる場合に、もう一つ特殊な点があります。いわゆる「20万円ルール」と呼ばれるものです。

 被害者が怪我をして人身損害が生じた場合、被害者の過失割合が7割以上10割未満の場合には、自賠責から受け取れる保険金の金額は、2割減になるのが通常です。ただし、①損害額が20万円を下回っている場合には、減額されずまた②減額によって20万円を下回る場合には、20万円が支給額になるというルールがあります。これが、通称20万円ルールと呼ばれるものです。

 自賠責において、この20万円ルールと重過失減額の制度があることによって、被害者請求と裁判とで、金額に差が生じることがあります。例えば、被害者の怪我での人身損害が15万円、過失割合が7割の事故の場合、自賠責に請求した場合には、回収できる金額は15万円全額になる可能性が高いのに対し、裁判で請求した場合には、15万円から過失の7割分差し引かれるので、4万5千円が認められるに過ぎない、という結果が生じることがあります。

 つまり、場合によっては、裁判ではなく、自賠責への請求のほうが得になる場合もありうるということです。

 ただし、弁護士であっても、交通事故分野に明るくない方は上記の自賠責のルールを知らないこともありえます。そのような場合には、結果的に被害者の方が損をすることになりますから、交通事故の分野は、経験と実績のある弁護士へのご相談をお勧めします。

投稿者: 小島法律事務所

2020.12.17更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「人身傷害保険」についての解説です。

 自動車事故の際に使用される任意保険のサービス内容は、大きく分けると、①自分や同乗者の(自分側の)損害を補償するものと②相手方への損害を代わって賠償するものとに分けられます。

 このうちの前者の1つに、「人身傷害保険」という保険商品があります。この保険は、保険契約者やその同居の家族などの一定範囲の人が交通事故によって怪我や死亡した場合に、自身の契約している自分側の保険会社が、その損害を補償するというサービスです。

  この保険が登場したのは比較的最近で、平成10年ころです。それまでの自動車保険は、相手に損害を補償するという点にのみ特化していましたが、このころから自分の損害を自分の契約している保険会社が補償するという新たな形の保険商品が誕生しています。

 その人身傷害保険については、具体的な内容は各保険会社の約款によって差はあるものの、ほとんどに共通して①使用しても等級が下がらない②相手の無保険や自身の過失といった事情に左右されにくい③簡易迅速に補償を受けられるという各メリットがあります。

 ②については、自身の契約する保険を使用するというものですから、相手が無保険や所在不明の場合でも、自身にも事故発生について過失がある場合でも、約款に定められた支払基準に基づいた保険金が受け取れるのが原則になっています。

 ③については、通常、相手方の保険会社が支払いを行う場合には、示談が成立するか、もしくは裁判所で判決が確定するまで、支払いがされないのが原則です(相手の保険会社による「一括対応」や「内払い」といった先払いの制度もありますが、お互いの主張が対立しているような事案では期待できません)。 

 これに対して、人身傷害保険を請求する場合、請求先は自分が契約している保険会社ですから、支払いは迅速に行われます。 

 以上のように、人身傷害保険は、被害者加害者双方の過失認識に差がある場合などに、非常に使い勝手の良い保険商品であるといえます。ただし、比較的新しく、複雑な点もあるので、すべての弁護士が十分に知識・経験を有しているとは、言い難いと思います。 

 当事務所の弁護士は、このような保険の知識に精通しておりますので、お気軽にご相談ください。

投稿者: 小島法律事務所

2020.12.03更新

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「あおり運転者に対する損害賠償請求」についての解説です。

 昨今、あおり運転に対する処罰規定が創設されるなど、あおり運転に対する関心が高まっています。

 あおり行為によって引き起こされた交通事故(たとえば、被害車両の後方から加害車両が車間距離を保持せず、急接近を繰り返したうえで、加害車両が被害車両の追突するような事故)が発生した場合、もちろん被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。

 交通事故における加害者から被害者への賠償は、加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社によって代わりになされるのが通常です。しかし、上述のようなあおり行為が原因となって事故が発生した場合には、加害者側の保険会社は、「故意免責」を理由として、被害者への保険対応を拒否する可能性があるのではないか、という疑問が生じます(現実にはあまりないとは思いますが)。

 まず、故意免責とは、保険金支払い事由にあたる事故が、被保険者(加害者)の故意によって生じた場合に、保険会社が保険金の支払いを拒否できるというものです(保険法17条1項、各種保険約款参照)。

 上述のような急接近を繰り返すようなあおり行為は、故意になされるものと考えられますから、そのあおり行為が原因で事故が発生した場合には、加害者側の保険会社は、この故意免責の主張をして、保険対応を拒否するという可能性が一応は考えられるのです。

 そして、以上の故意免責について生じる論点に関し、判断された最高裁の判例(最高裁平成5年3月30日判決(民集47巻4号3262頁))があるので要旨をご紹介します。

 この事件は、加害者が車両を発進させる際に、あるトラブルの相手方であった被害者が、当該車両の扉を開けようとしたり、フロントガラスをたたくなどしたために、加害者が車両を発進させたところ、これにより被害者が転倒し、数日後に死亡したという事件です。そして、被害者の遺族が加害者側に損害賠償請求を行ったところ、加害者側の保険会社は故意免責を主張して賠償を拒否したというものです。

 この事件において裁判所は、①未必の故意であっても故意免責の場合の「故意」に含まれることを前提にしつつ②任意保険契約当事者の意思解釈からすると、故意を原因とする事故においても、予期しなかったような損害が発生した場合には、免責の範囲外である、との判断を行いました。

 つまり、上記判例をあおり行為にも引き直して考えると、あおり行為を原因とする事故が発生した場合には、あおり行為の故意と、あおり行為による事故発生及び被害の範囲を加害者が予期していたかという2つの観点から、保険会社の故意免責の主張が成立するかが検討されることになるといえます。

 したがって、あおり行為が原因となった事故が発生した場合でも、それをもって直ちに故意免責が適用されるわけではないということになります。

 当職の実感としては、実際に加害者側の保険会社が故意免責を主張するケース自体、稀だと思います。被害者と加害者が通謀して事故を起こすような(いわゆる、つくり事故の)ケース等の場合には故意免責が主張されますが、その場合には、ほとんどの加害者側の保険会社は、綿密な調査を行っていると思います。

 ちなみに、故意免責に該当し、加害者側の保険会社が保険対応を行わない場合には、自賠責に対する被害者請求のほか、加害者本人から賠償を受けたり、自身が加入する任意保険(人身傷害保険等)から一定の補償を受ける等の手段が考えられます。

投稿者: 小島法律事務所

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